2015年5月12日火曜日

第1096話 ふりむけばニシニッポリ (その4)

初めて訪れた西日暮里の「はってん食堂」。
選んだつまみは青椒肉糸だ。
自分でチンしてラップをはがす。
実際に見てチョイスしたんだから確認済みなれど、
主役となるべき青椒(ピーマン)と肉糸(豚肉)よりも
にんじんと竹の子が幅を利かせている。

当然、不満は残るが
170円じゃ文句を言ったらバチがあたるというものだ。
CPを考慮して及第点をあげよう。

壁に大きく貼られた文言には
 食の原点食堂にあり
 食の明日もここ食堂にあり
とあったが意味はよく判らん。

それでも庶民の”食”を支えているという自負があるのだろう。
いずれにしろ、そこそこの新発見ではあった。
よかとでしょう、よかとでしょう。

30数分後、目当ての中華屋「万馬」へ舞い戻る。
すると、前回は仲良く賄いを食べていた女将の姿がない。
店主が独りで中華鍋をあおっているではないか。
その横顔を正面に見るカウンター席に腰をおろした。

 先客は一人だけだ。
鍋をあおるオヤジの胸元からのぞく白い胸毛が
どことなく彼のパーソナル・ヒストリーを物語っている。
どうやら客の注文は焼肉ライスらしい。
出来上がりをチラリとみたが、あまり旨そうにはない。

ワンモア・チャンスを与えたラーメンがホンの5分で目の前に―。
やや細めの麺はチリチリに縮れて気に入りのタイプだ。
スープも化学の力をさほど感じさせず、
これは明らかに先夜のニラレバよりデキがいい。
厚切りのチャーシューはもも肉だろう。
ほかにシナチクとほうれん草。
昭和30年代の中華そばは常にこんな景色だった。

「万馬」だけに万馬券とはいかないまでも
名誉挽回にはじゅうぶんといえよう。
このラーメンのために
わざわざ西日暮里まで出向く気にはならないが
とにかく「万馬」の再訪が
「はってん食堂」の発見に”はってん”したことは事実。
ナイスゴールの代わりにナイスアシストと言っておこう。

これを機会にその後、
2度ほど24時間営業の「はってん食堂」で飲んだ。
ニシニッポリをふりむいて、よかったぞなもし。

=おしまい=

「はってん食堂」
 東京都荒川区西日暮里5-14-12
 03-5811-6126