2016年1月26日火曜日

第1281話 漱石ゆかりの洋食屋 (その2)

千代田区・神田淡路町の洋食店「松栄亭」。
漱石の稿を続ける。

でもこの店は好きだ。
好物はいろいろあり、串カツとオムレツは特筆に価する。
ポークカツもよく、季節のかきフライも上等。
揚げ油にラードを使用するため、
カキアゲは別として揚げ物の風味に秀でているのだ。

極め付きはぬか漬けとライスなのだが
安定感抜群のぬか漬けに反して
炊き上がりにムラがあるライスが難点。
カレーライス・ドライカレー・チキンライスなどのライスものには
今一歩の独自性が求められる。
チマチマとまとまった印象がぬぐえず、
食べ進むうちに退屈してきてパンチ不足が浮き彫りとなる。

文豪・漱石にはカキアゲよりも串カツやポークカツを食べさせたかった。
さすれば漱石もその旨さに目覚め、
再訪の際には注文の掛け声がこのように転じたことだろう。
「ちょいとネエさん、吾輩はカツである!」

秋も深まり冬の到来を前にして
「松栄亭」の品書きにかきフライが載るようになった。
ここのかきフライは好みのタイプ。
そりゃ有楽町の「レバンテ」や
銀座の「煉瓦亭」を凌駕するとまでは言わない。
言わないけれど、かなりの水準に達していることは確かだ。
 
感心しない洋風かき揚げを注文するなら断然こちらだろう。
めしとも・M代サンを誘い出し、旧連雀町にやって来た。
日本そばの「まつや」、あんこう鍋の「いせ源」、鳥鍋の「ぼたん」、
甘味処「竹むら」が昔ながらの佇まいを見せている。
 
惜しむらくは数年前の火災で「かんだやぶそば」が焼失したこと。
再建されて往時の面影を少しく偲ばせてはいるものの、
店内の雰囲気は変わってしまった。
界隈を10分ほどぶらぶらと散策し、
相方に蘊蓄(うんちく)を語ったあとで白い暖簾をくぐった。
 
実はこの「松栄亭」も前述した店々に匹敵するほど、
レトロな景観を誇ったものだった。
それがかれこれ十数年前だったかな?
改築されてモダンな姿に生まれ変わってしまった。
現在の店舗は見た目だけでなく、
漂う匂いまで変わったような気さえする。

例によって、いの一番にビールをお願い。
わがのみともは言うに及ばず、めしとももみな、
そこそこアルコールをたしなんでくれるからありがたい。
昼めしどきの独り飲みは旨くも何ともないからネ。

=つづく=