2016年7月5日火曜日

第1396話 文豪たちも来たろうか? (その3)

千駄木の日本そば店「巴屋」は天保元年の創業。
ぜひ行かねばと腰を上げた次第だ。
初見参にあたってK子老人をお誘いしたら
快諾の旨、返信があった。

それではと待合わせを
最寄り駅の地下鉄千代田線・千駄木駅にする。
いや、ちょいと待てヨ、
駅から店までの団子坂がお年寄りには難関だ。
あわてて再メール。
場所を白山上の三井住友銀行前に変更する。

老人は満面の笑みを浮かべて現れた。
久方ぶりの挨拶もそこそこに彼曰く、
「今日は指せるの?」―相変わらずお好きなのである。
この人の辞書に”花より団子”の言い習わしはない。
何せ、”飯より将棋”だからネ。

大観音の前を通って到着した「巴屋」である。
店内はさすがに歴史を感じさせるものの、
不可思議なレイアウト。
大きなテーブルがど~んと4卓。
それも2卓づつ、ピッタリくっつけられていた。

ほかには狭い小上がりに2卓。
言わばテーブル席は広々と、どこぞの社員食堂、
小上がりは狭苦しくて場末の居酒屋風なのだ。
粋もセンスもあったもんじゃないネ。

食後は将棋を指すのだ、ビールは控えることにした。
品書きは卓上になく壁にh貼りめぐらされている。
一般的な単品もののほか、目を惹くのはおすすめメニューだ。
海老天丼や親子丼に
温・冷選べるそばかうどんが付いたセットである。

相方のK子老人の視線もそこにくぎ付け。
健啖家だからもりやざるでは満足できないのだ。
ともに気になったのは何を差し置いても穴子丼。
海老の場合は海老天丼と明記されてるのに
穴子は単に穴子丼とはこれいかに?

「あれはやっぱり穴子の天丼だよねェ」
「まあ、煮穴子や焼き穴子ってこともあるでしょうが
 普通は天丼だと思いますよ。
 柳川風の玉子とじも考えらるけど、
 それならそれでその旨を謳うでしょうし―」
「女将に訊いてみるかな?」
「いや、そのまま注文して何が出て来るか
 出たとこ勝負もまた一興でしょう」
「それもそうだ」
こんな会話が交わされたのだった。

=つづく=