2016年7月21日木曜日

第1408話 クラムだって恋をする (その1)

今話はクラム、いわゆるハマグリのハナシ。
シジミ、アサリもけっこうだけど、
二枚貝のキングはハマグリであろう。
鮨種となる赤貝・青柳・みる貝・北寄貝等は
生で食べたらすばらしく美味しいが
また別のカテゴリーに括らなければなるまい。

J.C.は1987年3月半ば、ニューヨークに赴任した。
最初の1週間は歓迎会やら
個別の”飲みニュケーション”やらで連夜の午前サマ。
いろんなモノを飲んだり食ったりしたわけだが
もっともインパクトが強かったのがハマグリだった。

ハマグリなんぞ別段、珍しくも何ともないが
驚くべきはそれがナマだったこと。
前述した鮨種の貝類は基本的にナマで賞味される。
しかるに味噌汁に最適の貝トリオを
ナマで食する日本人はまず皆無であろう。

生食の貝となると、真っ先にピンとくるのは牡蠣。
おそらくそのジャンルでは断トツの消費量だと思われる。
確かに生ガキはとてつもなく旨い。
殊に日本産の真ガキは世界に最たる美味を誇っている。

そう信じて疑わなかったこの目からポロリとウロコが落ちた。
生まれて初めて食べた生ハマグリは実に強烈だった。
鮨だ刺身だと魚介類の生食にかけては
日本人が世界のリーディング・イーター。
その座を脅かすのがニューヨーカーだったとは!

マンハッタンのレストランではオイスター・バーに限らず、
フレンチや和食店でも生ハマグリを供する。
通常、小ぶりなリトルネックと
大ぶりなチェリーストーンがメニューに載っており、
J.C.が注文するのは常にリトルネック。
デリケートな風味が好みにピタリと合ったのだった。

その点、図体のデカいチェリーストーンはかなり大味。
一度食べて閉口して以来、二度と指名することはなかった。
同じ生ハマでもまったくの別物、
真ガキと岩ガキほどの違いがある。

あれは10年ほど前だったろうか、
浅草は雷門前のスーパーマーケット「オオゼキ」で
見慣れない二枚貝に遭遇したのは―。

サイズは中サイズのハマグリってな感じ。
光沢のない貝殻には横筋が走っていかにも不味そう。
パックのラベルにはホンビノス貝とあった。
いったい何だよ、コレ?

=つづく=