2016年7月13日水曜日

第1402話 錦の御旗に群がる五人 (その3)

駒込は霜降橋の交差点に近い「炒め処 寅蔵」で
第一陣の三匹がピータンに舌鼓を打っている。
ほとんどの客が注文する焼き餃子も
丁寧に包まれ焼かれて満足度が高い。
よくありがちな皮と皮とがひっついて
はがそうとすると破れてしまう粗忽物とは大違いだ。

19時にヤクザの、もとい、薬剤師のW子が現れた。
この娘()は、いや、娘と呼ぶには
少々トウが立っているものの、
気立てはいいし、器量だってぜんぜん悪くない。
なのにいまだに未婚で親元に居るんだから
いったいどんな人生を生きてきたんだろうねェ。
未婚の、あいや、未完の大器なのかもしれんなァ。

追加オーダーは
豆腐とねぎのサラダ仕立て、蒸し鶏、キクラゲ炒めの3品。
逸品はなくとも継ぎの役目はじゅうぶんにはたしてくれる。
ビールに飽きた先遣隊が紹興酒の珍10年を所望したとき、
銀行勤めの八ちゃんが到着、計5名が顔を揃えた。

厨房にいる中国人シェフに
清蒸全魚のアラ・キュイジーヌを伝える。
総勢五人なので一匹では心もとない。
念のために二匹お願いしてあった。
転ばぬ先の杖である。

そのあいだを継ぐため、焼き餃子をもう一人前と
大正海老の塩味炒めを注文しておく。
火の通し巧みな海老がなかなかに美味しい。
紹興酒との相性だって悪かろうハズがない。

ワイワイガヤガヤやってるまにメインのハタが蒸し上がった。
見ればほどよいサイズの真ハタであった。
ハタにも赤ハタ・キジハタ・アズキハタ・ネズミハタなど、
いろいろあるのだ。

やはり二匹にしておいてよかった。
遠慮や気兼ねをせずにのびのびと食べられる。
プリンとした食感にデリケートな食味、
ハタの美味しさを心ゆくまで堪能する。

それにしてもこの清蒸、
白身魚を料するにこれ以上の方法はあるまい。
和食の煮付けや鍋物、フランス料理のムニエルも
美味の極みながら清蒸には
一歩譲らざるを得ないのではないか。

支払いは一人アタマ5千円ほど。
一同、大満足で夜の街へ。
徒歩15分は掛かる二次会場、
動坂下のスナックへ向かいましたとサ。

おっと、そう、そう、
サブタイトルの「錦の御旗に群がる五人」は
「二匹の真ハタに群がる五人」の間違いでありました。

=おしまい=

「炒め処 寅蔵」
 東京都北区西ヶ原1-1-1
 03-3918-2385