2016年11月1日火曜日

第1481話 ラブホ街の入口で (その3)

まだ店名を明かしていなかった。
「あまのじゃく」というのであった。
訊けば古くからの屋号であって
数年前にママ夫婦がそのまま引き継いだのだそうだ。
もっとも店主はほとんど店に出てこないらしい。
仕込みの手伝い程度はしているというが
ほとんど髪結いの亭主ですな、この状態は―。

ここでJ.C.が所望したのは、とんぺい焼きだ。
お好み焼きをあまり好まぬ身ゆえ、
お好み焼き屋は滅多に利用しないが
入ったときには代わりにとんぺい焼きを頼むことがままある。
いわば小麦粉を使わぬお好み焼きだネ。

じゃ、何を使うんだ! ってか?
代わりに溶き玉子を使うんざんす。
平ぺったいオムレツのアレンジ版とでもいおうか。
これが腹にもたれず、恰好のつまみになってくれる。

生ビールの二杯目。
相方は水餃子を追加した。
中国南部の出身というママ手作りの餃子はなかなかである。
本来、餃子は中国東北部、旧満州辺りの郷土料理。
南支は米処だが北支は小麦粉圏だからだ。
南部の出でも美味しい餃子を作る人が少なくないらしい。

品書きに”牛カルビと野菜のヒマラヤ岩塩焼き”というのを見とめて
にわかに興味をそそられる。
ほかに調味料や香辛料を使わず、岩塩だけの味付けだという。
ふ~む、塩だけかいな、それもよかろう。
「ハイ、一人前!」

調理場のママが取りい出したる一枚のまな板はくすんだ白色である。
てっきり古びたプラスチックと思いきや、
何とこれがヒマラヤ岩塩そのものだった。
上に食材を乗せてじかに焼くのだ。
岩盤浴は聞いたことがあるが岩盤焼きは初耳である。

岩盤塩からにじみ出た塩味だけのカルビと野菜は
文字通り素朴な味付け、シンプリー・ナイスとでも形容しようか、
雑味がないぶん、これはこれでよい。

いろいろ注文してみたところ、ハズレは一つとしてなかった。
僥倖といえよう。
結果として当たり!だったわけで
こういうこともあるんですネ。

ホンの気まぐれで飛び込んだ「あまのじゃく」。
夜の鶯谷はただ”ヤる”だけじゃなく、
”飲る”にもまたヨシの街でありました。

=おしまい=

「あまのじゃく」
 東京都台東区根岸1-3-21
 03-5603-6088