2017年1月10日火曜日

第1533話 行動開始は二日から (その3)

べったら漬と数の子で清酒・白鶴を飲っている。
年末年始のエンコの街は普段に増して活気づく。
友人の奥方に大の浅草好きがいるが彼女曰く、
「浅草に来るとウキウキする」―けだし名言。

品書きのぬたに目をとめた。
単にひらがな二文字で”ぬた”。
素っ気ないことこのうえない。
普通は、まぐろ、あさり、赤貝など、
食材の明記がかぶさるんじゃないの―。
とりつくシマもないが潔よさがうかがえる。

めったに頼まぬ一品ながら、潔さに促されてお願い。
あえて食材を訊ねずにネ。
運ばれ来たのはまぐろのぬたであった。
いわゆるまぐろのブツが無造作に6~7片。
長ねぎはホンのちょっとで
赤身と中とろが入り混じるブツが主役を張っている。

赤味噌ベースの味付けはほどよい甘味を蓄えていた。
ありゃ、旨いなこれっ!
一度料理上手の友だちに
浅葱(あさつき)のぬたを振る舞われ、
その美味に瞠目したことがあるが、これもまた素晴らしい。
店によって当たり外れがありそうな料理だけれど、
これからは注文を増やすとしよう。

お銚子のお替わりとともに狙いを定めた穴子天ぷらを。
「三岩」に来たら絶対にもらさない。
それほどにデキのよい穴天である。
やや小ぶりのメソッ子と呼ばれる幼魚が丸二尾付け。
素材よし、揚げ方よしの逸品に舌鼓をポンポンの巻だ。

浅草には「A」、「S」、「D」、「N」など、
有名な天ぷら店が目白押しながら
個人的にはここの穴子が一番好き。
丼つゆにくぐらせて天丼を誂えてもらたっら
さぞ美味しかろう。
品書きには載っていないが一度頼んでみようかの。

さて、そろそろ腰を上げるとするか・・・。
ちょうどそのとき、珍しくもヤング・カップルが入店してきた。
客全体の平均年齢を一気に下げるほどではないにせよ、
店内の雰囲気が彼らのおかげでずいぶんと変わった。
若者にも浅草に来たら
ぜひ、こんなシブい店を利用してほしい。

支払いを済ませ、外に出ると夜はまだ浅い。
もう1軒立ち寄ってもよかったが
今宵は早めに帰宅して
草餅を肴に燗酒の飲み直しとまいりやしょう。

=つづく=

「三岩」
 東京都台東区浅草1-8-4
 03-3844-8632