2017年1月19日木曜日

第1540話 年の瀬の米沢 (その2) 

山形県・米沢市の老舗デパートの大沼。
閑散どころかわれを含めて客はたった二人の鮮魚コーナー。
ちなみにほかの売り場に客は皆無だ。
それでも並んだサカナの質は悪くない。
腐っても鯛ということか―。
東京のデパ地下と比べ、それほど遜色がないから
スーパーの水準は軽く超えている。

しかし、街の繁華街はサビれにサビれていた。
月日の流れの残酷さは何も人の容貌に限ったことではない。
昔飲んだスナックを探したが見つからなかった。
とっくに閉業したのだろう。
その近くにあったパチンコ店すら消えている。

アーケードのメインストリートから一本入っただけで
古いビルが立ち並んでいた。
1950年代の建築じゃなかろうか。
とある立体駐車場など、
石原裕次郎全盛期の日活映画にバッチリだ。

人質として囚われた浅丘ルリ子を救出するため、
今にも裕次郎が乗り込んできそうな気配。
こんな建物は現代の東京に残っちゃいない。
横浜ならかろうじて・・・そんな感じであろうヨ。

小半刻ほどほっつき歩いたものの、
気に染まる店は1軒としてなかった。
まあここならどうにか・・・
心に折り合いをつけて「弁慶」という店の暖簾をくぐった。

入店すると客席側のカウンターでくつろいでいた、
店主と女将が立ち上がった。
客の来店などハナから期待していない様子。
のんびりしたものだ。

キリンラガーの中ジョッキを傾けながら
ラミレートされたメニューをながめてもピンとこない。
惹かれる料理は一つとしてない。
当方も期待などしてなかったから
”やっちまった感”もない。
何だかナイナイづくしぞなもし。

鮨屋にありがちなガラスの食材ケースに
メニューに記載のない真鱈の白子を見つけた。
つややかで弾力もありそう、コイツは間違いなく上物だ。
「白子はポン酢で?」―店主に訊ねると
「ええ、そうです」―応えが返ってくる。

これしかあるまい・・・そう思ってお願いした。
はたして北海の波にもまれた鱈の精巣は予想通りの美味。
真子(一般的なたら子)は助宗鱈だろうが白子は真鱈に限る。
あらためて得心した次第だ。

=つづく=