2017年1月13日金曜日

第1536話 愛され続けて65年 (その1)

栃木と福島の県境を越え、ここからはみちのく路。
時雨の白河をやり過ごし、到着したのは郡山だ。
3年前にもここでランチを取った。
そのときの中華料理屋が当たりだったから
再訪でよかったけれど、
此度は事前にチェックして、ここぞと決めた店があった。
創業昭和27年の「三松会館」がソレである。

より賑やかな郡山西口から歩くこと5分、
お目当てはすぐに見つかった。
見つかったが店内はほぼ満員の大賑わい。
乗り継ぎに1時間の余裕もない身、
こりゃ、ちょいとヤバいな、そう懸念したことだった。

席を立った先客のテーブルを手早く整えた女子店員に促され、
落ち着いたのは入れ込みの座敷である。
立ち去る彼女を呼び止め、さっそくのビール大瓶。
時間節約のため、不本意ながらせっかち野郎に徹している。

開いたメニューの品目にブッタマげた。
東京から見上げる夜空の星の数を圧倒している。
和・漢・洋、多岐にわたってとどまるところを知らない。
ご興味のある方は当店のHPをご覧あれ。

すべて目を通したら乗るべき列車に乗り遅れる。
吟味するひまもあらばこそ、
ビールを運んでくれた女性に一声、
「ポークソテーください」―温泉まんじゅうほどではないが
ポークソテーも実に久しぶりの遭遇である。
人間、時間的余裕を失うとトンデモないもんを注文するものだ。

13時過ぎとはいえ祝日のこと、店内は客がごった返す状態。
オチオチ飲んでおられんゾ。
そう思いつつも、遅れたら郡山―米沢間を
新幹線に切り替えればそれで済むこと、
腹をくくったのはこの空間にしばし身を置きたいからだ。

意想外に豚クンの到着は速やかであった。
「お早いお着きで!」―ナイフを入れる前に声を掛けてやる。
ソースは本格的なデミ・グラス
膨大な品揃えを誇りながら
それぞれの調製に手抜かりがない。
俺ら、こんな店、好きだァ!

味のほうもかなりイケていた。
ポークソテーというより、
ポークチョップと呼ぶにふさわしいブッタ斬りは
粗削りながら豚本来の旨味をダイレクトに届けてくれている。
ただし、完璧とはいえない弱点を抱えた一皿ではあった。

=つづく=