2017年4月6日木曜日

第1595話 肝の背肝の姿なく (その1)

あれは二月の末の頃、
「平和の証しの焼き鳥論争」と題して
二話ほど綴ったことがあった。
その末尾の部分を再び紹介させていただこう。

それにもう一つ、串ぬき容認の理由がある。
焼き鳥はおおむね塩かタレかの二者択一。
塩ならよくともタレのケースは
串からはずさぬとタレをからめにくい。
はたしてそこまで考慮に及ぶ焼き鳥店が
都内に何軒あるだろうか?

なんだかんだと書き綴っていたら
旨い焼き鳥が食べたくなった。
よって今週末、
ノスタルジックな小路にある店の予約を済ませた。

数ある焼き鳥の部位のうち、もっとも好きなのは背肝。
この店の背肝が旨いんだよなァ。
訪問後、ご報告に及びましょうゾ。

そう、その報告であります。
当夜の相方はB千チャン。
かれこれ30年を超えるつき合いになる。
初めて酌交に及んだのは四谷荒木町の「三櫂屋」。
煮立った鍋に豚バラの薄切りを
しゃばしゃばと泳がせながら旨い酒を酌んだ。
この店は今もおなじ場所にある。

そう、そう、このご仁、
J.C.のニューヨーク赴任時にはるばる訪ねて来てくれた。
いや、その際の彼のいで立ちにゃビックリこきやしたネ。
上下の服装はまともだったが
頭に毛皮の帽子をかぶっていたのだ。

訊けば毛皮はビーバーのモノだという。
それもブットい尻尾の付いたヤツ。
時は1836年、アラモの砦で奮戦したデヴィー・クロケットの如し。
映画のオールドファンなら
ジョン・ウェインの雄姿を覚えておられよう。
もっともクロケット帽はアライグマ製。
よって尻尾は縞々模様で虎のパンツと一緒だネ。

やって来たのは先話でもちょこっとふれた、
谷中霊園そばの昼とて暗い初音小路。
その一番奥に位置する「鳥真(とりまさ)」なる焼き鳥店だ。
老夫婦が営む中華そば屋「一力」の隣りに小路の入口がある。
こんな位置関係になる
こうなると昭和30年代どころか
もはや戦前の東京の裏町ですな。

=つづく=