2017年4月17日月曜日

第1602話 メロにメロメロ (その2)

門前仲町の「宝家」の2品目。
銀ムツのあまりの量に”七人の侍”が圧倒されている。
「責任者、出て来い!」―
こう叫んだのは、もちろん心の内でのこと。
品行方正なJ.C.がそんな狼藉を働くワケないじゃん。

責任者はハナからカウンターの中で腕を振るっていた。
亭主が調理、女将さんが接客と、
夫婦で切り盛りする飲食店の典型的パターンである。
見たところ夫婦仲はよさそう。
客の目もはばからず、
大げんかを始めるケースをまれに見掛けるが
ああいうのこそ、犬も食わないと言うのだろう。

そんなことより卓上の銀ムツの山である。
女将は
「メロのカマの煮付けで~す」―
そう言いながら大皿を運んで来たような記憶がある。

銀ムツ一般的にメロと呼ばれる。
正式名称はマジェランアイナメという。
マジェランとは16世紀に活躍したポルトガルの航海探検家、
フェルディナンド・マゼランのことだ。

太平洋と大西洋を結ぶマゼラン海峡を
誰しも一度は耳にしたことがあろう。
南米大陸最南端とフエゴ島の間の海峡だ。
フエゴ島は東半分をアルゼンチン、
西半分をチリが統治している。

メロというサカナは上記2ヵ国で主に漁獲される。
マゼラン海峡周辺にもウヨウヨいようし、
遠くは南極海(南氷洋)にも広く分布する深海魚だ。
以前はデパ地下などでフランス産をよく見かけたが
北半球にはいない魚種だから
フランス船が出張って行って漁獲したものと思われる。

見た目はムツや黒ムツに似ていないことはないメロながら
ムツとはまったく別種のため、
現在では銀ムツの呼称が不適切とされている。
よってメロの魚名が定着したわけで
マジェランナイナメなどとは専門家以外の誰も呼ばない。

では、メロとはいったい何ぞや?
ハタ、クエ、アラなどハタ類の総称のスペイン語がメロだ。
南極の深海に棲むわりに食味が優れているのも
ハタに近いと聞けば、何となく得心できよう。
事実、ほどよい脂のせいか若者を中心に人気がある。
J.C.も脂ノリノリの銀ダラよりこちらを好む。

=つづく=