2017年4月3日月曜日

第1592話 慶喜公の墓のそば (その3)

谷中霊園から小さな跨線橋を渡り、東日暮里の町。
線路沿いは行けないので根岸方面へ迂回を図る。
正岡子規が愛でた「羽二重団子本店」は工事中だった。
ドエラく急な石段を上って南側の小橋を霊園側に渡り返した。

再び墓石の中を歩む。
園内地図には徳川慶喜の墓の位置が明記されている。
谷中霊園には近くの寛永寺の墓地も含まれていて
徳川家の墓はそこにある。

徳川家とは何の所縁もないこの身、
ヨソのウチの墓参りをするほど
酔狂じゃないので園外に抜け出た。
二つの橋をちゃんと渡って本日の目的ははたしたてきたしぃ。

界隈の地番は上野桜木。
二ヶ月ほど前にもこの辺りを散策した。
東京芸大を経て御徒町、そこから広小路、不忍池、
根津、千駄木と徘徊したのだった。

そろそろ遅い昼めしにしよう。
やって来たのは三崎坂上で
目の前に霊園の正門がその門を開いている。
坂を下り掛けたところにかつて訪れた2軒の店がある。
町の中華屋と日本そば屋だ。

中華屋は昔ながらのタンメンが美味しい。
そば屋にはランチの定食に酒のつまみまで揃っている。
さて、どっちにしましょうか?
迷うこと数分、此度はそば屋にした。

屋号は・・・ここでビックリしなさんな。
何とその名を「慶喜」というのだ。
ただし、「よしのぶ」ではなく、「けいき」と音読みする。

前回の訪問時、店のオジさんに訊ねたら
「いくら何でも”よしのぶ”じゃ、アンマリだからネ」―
照れくさそうにもらしたものだ。
そこまで言うならオリジナルの名前をつければいいものを。
思ったけれど、黙ってうなづいていた。

前回もやはり昼下がりに友人と訪れ、
板わさ、玉子焼き、メンチカツで昼飲みに徹した。
今日は単身につき、ビールは1本にとどめるつもり、
帰宅後、こなさなければならない案件もあった。

卓上の品書きに

=土曜日限定 とんかつ定食 800円=

というのを見つけた。
ふ~む、とんかつか、しばらく食べてないなァ。
おまけに小さなそばも付いてる由。
ことここに及び、食指が動き始めたのでありました。

=つづく=