2017年8月7日月曜日

第1672話 開業間もない焼きとん屋 (その3)

JR埼京線・十条駅前には商店街が縦横に走っている。
ちょいと目黒区・武蔵小山を連想させるものの、
北区のこちらには庶民的な空気が流れている。
八百屋・魚屋・惣菜屋などのたたずまいに
昭和の匂いが残っているせいだろう。

その一画、駅から徒歩5分ほどの「碁ゑん」にいる。
豚レバーの網脂焼き(クレピネット)を食したところだ。
当店の焼きとんは基本的に
客がタレ・塩の指定をしないのが習わしと前述したが
それには理由があった。

実は独自の薬味が添えられるのだ。
1枚の小皿に3種の薬味が少量づつ、
赤・青・黄と、まるでトラフィック・シグナルの如し。
赤は辛味噌系、青はわさびに青唐、
黄色は粒マスタード主体だ。

でもネ、こういうのってあまり嬉しくないんです。
彩りはよくとも、どこか策士、策に溺れる感否めず。
一人よがりで一人相撲を取っている印象。
失策ではないにせよ、アイデアの勝利とは言い難い。

同じ三点セットならオーソドックスに
一味、七色、粉山椒がありがたい。
せめてカウンターに七色くらいは用意してほしい。
焼きとんにせよ、焼き鳥にせよ、唐辛子がないと味気ない。

さて、焼きとんの定番シロだ。
これまた悪くないが下茹で過剰でずいぶん柔らかい。
したがってそのぶん風味に欠ける。
まっ、許容範囲ではあるけれど―。

目の前にいたインド系のアンちゃんが上がって
中高年のオジさんが取って替わった。
どちらもまだ不慣れなアルバイターと推察される。
おそらくオーナーだろう、気難しそうな仕切り屋に
叱責されないまでもいろいろ指導を受けている。
どんな職種でもリタイア後に仕事に就くのは大変だ。
同世代として健闘を祈るばかりなり。
 
レバ塩とキクアブラが供された。
レバはやはりタレのほうが合う。
キクアブラというのは小腸壁の脂。
意に反してシツッコくはない代わり、かなり硬い。
それもナンコツみたいな硬さじゃなくて
噛んでも噛んでもなかなかノドを通らぬ肉質。
マウスピースを咀嚼するかのようだ。
 
埒があかずにこれが潮時、
意を決してゴックンと飲み下した。
こうするよりほかに手立てがなかったのだ。
 
=つづく=