2017年8月8日火曜日

第1673話 開業間もない焼きとん屋 (その4)

稀少部位のキクアブラを
どうにかこうにかクリアしてビールのお替わり。
オーナーと思われる御仁に問うと、
瓶もアサヒ、安堵しながらお願いする。

焼きとんはマメ、フワ、パイを追加注文。
もつ第二陣よりビールが先にサーブされた。
ところがボトルを見てガックシ。
アサヒはアサヒでもプレミアム豊醸だとサ。
エビスやサント・プレミほど重くはないが好みじゃない。
どうりで見慣れぬラベルだったわけだ。

マメは腎臓のこと。
形状が天豆(そらまめ)に似ているからネ。
マメは小間切れ状に串打ちされてタレ仕上げ。
口元に運ぶと、特有のオシッコ臭が鼻腔を抜けた。
いつも思い悩むことに、はたしてオシッコが腎臓臭いのか、
腎臓がオシッコ臭いのか、そのことがある。
答えはいまだに得ていない。

フワは肺臓で、これは塩。
不味くはないが焼くより煮込みのほうがよい。
殊に牛もつの場合など、煮込の中にフワを見つけると
ささやかな幸福感が訪れる。
好きだ。

第二陣のうちでよかったのはパイの塩焼き。
パイはオッパイ、言わずと知れた牝豚の乳房だ。
コリコリ、サクサクの食感がいいし、
繊細な滋味もちゃんと備えている。
当店のイチ推しはコレだろう。

小さな男の子二人を連れたパパが入店して
先刻、離店した若者たちの席に着く。
パパはビール、子どもたちはバヤリース・オレンジだ。
5分と置かず、今度はヤングレディ二人、J.C.の右側に。
耳に入る彼女たちの会話には知性のかけらもナシ。

余計なお世話ながら食材に何の問題もない、
この店の将来を左右するのは客層だろう。
加えてオーナーの表情も気になる。
常時、眉間にシワを寄せてたんじゃ、
スタッフ、殊にアルバイターはオドオドするし、
第一、客の居心地もよくない。

経営者ともなれば、いろいろ悩みはあろう。
だけどサ、そんなときこそ空威張りでもニッカリ笑おうヨ。
古来より日本男児に受け継がれてきた、
男の美学がそこにある。
そうじゃないかえ、皆の衆?

=おしまい=

「碁ゑん」
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