2017年8月15日火曜日

第1678話 思い起こすはジェルミとカラス (その1)

その夕べは狙い定めた居酒屋を空振ってしまった。
開店早々、すでに満席のため、
しばらく待っても席は空かないと告げる、
冷たい天使の、もとい、
つれない店主の言葉を耳朶に残しつつ、
相方ともども旧白山通りを南下していた。
テクテクではないヨ。
トボトボだヨ。

一軒のイタリアンの店先に差し掛かった。
以前、「大沢食堂」の在った場所で
現在は「シシリア食堂」の看板が掲げられている。
何度も前を通ったから存在は知っていたが
利用したことはなかった。

相方の同意を得てスッと入店した。
先客はいない。
「どちらのお席でも!」―店主の声に
テーブルではなくカウンターを選択する。
まっ、いつものパターンですがネ。

ファーストドリンクはもちろんビール。
イタリアのモレッティを注文仕掛かったところ、
いったん立ち止まった。
小池さんや蓮舫さんのようにネ。
「シシリア食堂」ならシチリアのビールでしょ。
よってメッシーナをお願いした。
ツレはグラスの白ワイン、オルヴィエートである。

グラスを合わせるとカメリエーレが口を開き、
本日のオススメは長崎産ヒラマサのカルパッチョだという。
(ヒラマサかァ、あまり好みじゃないなァ)
心でつぶやき、発声は控えた。

もう40年も以前。
バイト仲間4人で伊豆諸島の式根島に行った。
夏も盛りの時期だった。
新鮮な刺身がウリの民宿に2泊したが
夕餉の食卓に上ったのは連荘でヒラマサの姿造り。
嬉々として箸を運ぶ3人を尻目に
こちとらちっとも嬉しくなかった。

耳慣れないサカナだろうが
ヒラマサはスズキ目アジ科の肉食魚で
ブリによく似ている。
個体によっては成魚になると、
ブリよりも大きくなるそうだ。

両者の相違は旬。
ヒラマサは夏だがブリは冬。
ブリに鰤の字が当てられるのは
師走(12月)に美味しさが増すからだという。

=つづく=