2017年8月21日月曜日

第1682話 ブレーメンも炎天下 (その1)

灼熱の午後であった。
産後2ヶ月にならんとする美容師のK子チャンが
J.C.のために一日復帰してくれるというので
何もかも放り出し、出向いた渋谷の街であった。
とにかく2ヵ月半ぶり。
生まれた土地は荒れ放題、もとい、
私の髪は伸び放題である。

メトロ千代田線の明治神宮前(原宿)が最寄りながら
いつも下車するのは
都心から行って一つ先の代々木公園。
富ヶ谷と神山町の商店街を抜けるルートのほうが
歩いていて飽きないからだ。

それにしても暑いネ。
持ち込んだ缶ビールを飲みながら
理髪を任せるのが常とはいえ、
この暑さでは運ぶ間にビールがぬるくなってしまう。
もともとコンビニの缶は冷えが足りないんだ。
よってこの日は手ブラだった。

おおかたカットが終わり、
シャンプーのために立ち上がったとき、
パパが声を掛けてきた。
ヘアサロン「B.H」は父と娘の家族経営で
ほかにスタッフはいない。

パパ曰く、
「冷たい日本酒飲みませんか?」―
おっ、やったネ。
いいじゃん、いいじゃん。
歓んでいただくことにした。

店内には女性客がもう一人。
彼女もイケるほうで知らぬ同士の乾杯と相成った。
大吟醸かどうか定かでないが吟醸酒に間違いあるまい。
キリッと冷えてなかなかの美酒である。
オマケにスルメまで付いてきた。
グラス1杯ならスルメ1本でじゅうぶんなのに
3本ももらっちまった。
これまた上物につき、残りの2本は胸ポケットに―。

1時間足らずで髪は整った。
人混みをかき分けてやって来たのは渋谷駅である。
JR山手線、メトロ銀座線&半蔵門線、
京王井之頭線、東急東横線&新玉川線、
思いのままに何処へでも行ける。

地下に潜ったせいで利用者の利便性が失われ、
世に悪名高き東横線に狙いを定めた。
はて、どこサ行くべェか?

=つづく=