2017年8月28日月曜日

第1687話 ブレーメンも炎天下 (その6)

元住吉は「亀勢」のカウンターに止まっている。
目の前には女将と思しき熟年女性が包丁を握っていた。
お運びさんもそれなりの齢を重ねた女性お二人。
男っ気がまるでない。
歴史を刻んだ大衆酒場にしては極めてレアなケースだ。

中ジョッキはキリン、さもありなん。
川崎・横浜はキリンのテリトリーだからネ。
突き出しの枝豆は無料サービスのようだ。
つまみにはまぐろのブツを所望した。
家を出るときからブツにしようと心に決めていた。

女将がまぐろを出してくれながら
「ちょっとまだ凍ってるとこもあるの」―
申し訳なさそうに言う。
お詫びのしるしのつもりだろうか、
きゅうりと大根の半古漬けをサービスしてくれた。

ブツの名とは裏腹に立派な切り身が8切れもあって550円。
大衆酒場の鑑と言えよう。
これじゃ、ほかにつまみは要らないな、
そう思ったことである。

一応、品書きをチェックすると、
刺身はまぐろ、かんぱちが680円で、たこ、いかは550円。
野菜天、鳥唐揚げ、さつま揚げも550円。
小肌酢、ぬた、あじフライ、帆立フライは580円。
ほかに何品かあったが品数は少ないほうだ。

そのおかげだろうか、
なんでんかんでんガッツリ食いたい派の若者グループが皆無。
この環境はオッサンにとって実にありがたい。
酒がおかしな入り方をすると、
きゃつらは豹変するから喧しいったらありゃしない。
 お客様 飲食・おしゃべり お静かに
そう言いたくなるんだ。
まったくもって隣国の観光客を揶揄できないぜ。

TVのスポーツ中継を眺めながら中ジョッキをお替わり。
それにしてもまぐろのブツがちっとも減らないヨ。
いえ、モノはけっこうなんですがネ。
ゆるりと流れる時間とともに
いただくペースもスローダウンしちゃうんだ、きっと。

ヨソでは見たことのない白藤なる清酒を常温でお願い。
あまり特徴のない酒ながら、場の雰囲気には合っている。
時間をかけてブツを食べ終えた。
会計を済ませ、店を出たのが18時ちょうど。

どこかもう1軒立ち寄る余力を残しているけれど、
今宵は早めに帰宅して読みかけの小説に没頭しよう。
傍らにジンの炭酸割りでも置いてネ。

=おしまい=

「亀勢」
 神奈川県川崎市中原区木月1-32-6
 0044-411-5439