2017年8月2日水曜日

第1679話 ニュージャージーから来た夫婦 (その3)

コレド日本橋のすぐ裏手、「たいめいけん」にいる。
銀座の「煉瓦亭」、有楽町の「レバンテ」、
神田の「松栄亭」などに並ぶ、
東京を代表する洋食店の老舗である。

最初にビールの中瓶を2本。
それに1皿金50円也のコールスローだ。
同じく50円のボルシチとともに当店の名物は
数十年前から値段据え置きのサービス品。
もっとも定食屋に行けば、
味噌汁・お新香は定価に含まれているから
例え50円でも有料は有料だがネ。

考えようによっちゃ、タダより50円のほうが
客に与えるインパクトが強いというこった。
これは飲食店経営者が心に留めておくべきことで
まことに不思議にして効果的な現象といえる。

三人がグラスを合わせるのは20年ぶり。
お互い齢を重ねてそれなりのオジさん、オバさんになった。
ビールが到着したとき注文したのは
コヅルーハンバーグ、Lou―ビーフシチュー、
J.C.―牛レバーソテー。
接客のオバちゃんが
「ボルシチはよろしいの?」―
こうまで言われちゃ、お願いするのが手筋であろう。

さすがに老舗、三人が三人とも満足の笑みがあふれる。
ビールのお替わりをしながら談笑すること1時間半に及ぶ。
店外には短くなったものの依然として行列。
あまり長居しては営業に差しさわりがあるのでお勘定。
Louにおごられてしまった。
ありがとう、ご馳走さま。

無粋な高速道路がおおいかぶさる日本橋を北に渡る。
新派のお芝居、「日本橋」でヒロインの三田佳子が
「お鮨の上にカステラ乗せちゃったみたい」―
そう嘆いた悪景である。
東京の恥、日本の恥である。

日本橋北詰でちょいとした喫茶難民となったわれわれ。
数軒フラれてやってきたのは「千疋屋カフェ」だった。
意想外にテラス席がガラガラ。
これならゆったり落ち着ける。

注文品は季節のフルーツパフェ、ホットコーヒー、
ハイネケンであった。
ハイネケンは広く人口に膾炙しているオランダのビール。
さて、誰が何を頼んだのか?
読者はもうお判りですよネ。

JR神田駅でハグし合い、
また逢う日まで、サヨウナラ。

=おしまい=

「たいめいけん」
 東京都中央区日本橋1-12-10
 03-3271-2465

「千疋屋 カフェ・ディ・フェスタ」
 東京都中央区日本橋室町2-1-2
 03-3241-0877