2018年2月20日火曜日

第1813話 江戸川越えて市川&本八幡 (その3)

千葉県・本八幡の「馬越」。
隣りに座ったオッサンにいきなり肥を掛けられ、
もとい、声を掛けられ、振り向いた単身女性。
驚かせちまったかなとも思ったが
意外な言葉が返ってきた。

「飲んでみます?」
「えっ! いいんですか?」
「どうぞ」
「んじゃ、一口だけ」

ん? やっぱり漬けしょうがだヨ。
だけど、けっして旨いもんんじゃないネ。
訊けばガリ酎というんだそうだ。
しっかし、見ず知らずのオッサンに
よく味見させてくれたもんだな。

ガリ酎をキッカケとした二人の会話は続く。
本八幡在住の彼女は
界隈の飲み屋に精通している様子だ。
流れで判明したのはお名前がT子サンで
長野県・上田市のご出身。
そちらが上田市ならこちらは長野市。
ここからハナシが急速に盛り上がる。

黒ホッピーの(中)をお替わりし、
お次の瓶ビールはサッポロの赤星。
その後、レモンハイやら、そこにクエン酸を加味した、
”すっぱレモン” と、ずいぶんグラスを重ねてしまった。

結局は薬局、彼女の行きつけで飲み直すこととなる。
訪れたのは徒歩1分の「わさび」。
ワインバーの居抜きみたいな店は”酒肴蕎麦”を名乗る。
金宮の酎ハイで再乾杯。
突き出しの煮ごぼうには擂り胡麻がまぶしてある。

つまみは真鱈の白子ポン酢&かきの天ぷら。
どちらも一介の居酒屋のレベルではない。
他人をとやかく言えるガラじゃないが
ちょいとクセのある店主は歯に衣着せぬ物言い。
それでもカウンターの客は常連ばかりだ。

すぐに彼女の金宮ボトルは底をつき、
ニューボトルをお入しれて差し上げる。
いやはや、なかなかの酒豪だねェ。
とにかく二人ともよく飲むわ。

ふと気がつけば時計は23時半を回っていた。
最終電車にはまだ間があるものの、
そろそろ帰宅の途につかなくちゃ―。
連絡先の交換もないままに辞去したが
本八幡でハシゴしてれば再会の機会もあろう。

駅までの数分間、
頭の中で裕次郎と川中美幸の歌声が響いていた。

  ♪    帰ろうよ 灯りも消えた
     逢えるじゃないか またいつか  ♪

=おしまい=

「大衆酒場 馬越」
 千葉県市川市南八幡3-2-7
 電話ナシ

「酒肴蕎麦 わさび」
 千葉県市川市南八幡3-5-5
 電話ナシ