2021年1月19日火曜日

第2571話 かきフライのエレガンス (その2)

銀座3丁目、ガス燈通りの「煉瓦亭」。

1階が満卓につき、2階に案内された。

地下から3階まで4フロアのうち、2階が一番落ち着く。

3階は座敷になっており、以前はグループ客が多かった。

換気のよくない地下は現在、使われていない。

 

仔牛カツレツ or かきフライのどちらかを―。

そのつもりで来店したが、まだ迷っている。

壁の貼り紙により、生ビールはプレモルと判明。

メニューに大瓶(1000円)、小瓶(700円)とあるが

銘柄の記載はない。

 

バイト風のオニイさんに質すと

「あっ、ちょっとお待ちください」―

冷凍ケースから抜き出した大瓶のラベルをかざして

「こちらになります」―サッポロ赤星だ。

深川の食堂「ひまわり」のジイちゃんを思い出した。

キリンと思い込んでいたのに実際はアサヒ。

笑わせてくれた、あの孤独なジイちゃんを―。

 

意を決して大瓶、かきフライをオーダー。

ナイフ&フォークをセットしに来た、

ベテラン風のウエイターに確認したら

大瓶は赤星、小瓶がキリンラガーとのこと。

 

カトラリーは装飾が施された優美なもの。

フィッシュナイフとフィッシュフォークはかくあるべしだが

最近はホテルにおける、仏料理の結婚披露宴を除けば、

ほとんど見かけることがない。

 

オイスターはやや大ぶりが5カン。

生パン粉がカリッと揚がっているわりに舌にやさしい。

付合わせは丁寧な仕事ぶりのポテトサラダと

キャベツなんだが単なる繊切りキャベツではない。

軽く酢油で和えられ、きゅうりとニンジンも散見された。

 

タルタルソースは茹で玉子が主張するタイプ。

卓上のソースはウスターと中濃の中間あたり。

ナイフには指をふれず、フォークだけでいただく。

魚料理はナイフを使わぬほうが見た目ずっとスマートだ。

 

美味の際立つかきフライ。

先日、駒塲東大前の「菱田屋」で

デカいだけが自慢の無粋なヤツを

かきフライのバイオレンスと評したが

「煉瓦亭」はまさしくエレガンス。

埋めがたい両者のディファレンスを目の当たりにしている。

 

火を通し過ぎると貝柱が硬くなってしまう、

かき特有の欠点を生じさせぬ技術の高さが光る。

つかの間、舌にトロリと絡んだあと、

滋味を味蕾に残して消えてゆく。

 

官能を刺激する魅惑の感触は

僧院の片隅で清らかな尼僧と交わす、

禁断のディープキスもかくやと思われた。

 

「煉瓦亭」

 東京都中央区銀座3-5-16

 050-5872-1852