2021年1月20日水曜日

第2572話 あさくさ たそがれ 「ほてい」の穴子

めっきり人出の減った谷中銀座を抜け、

夕焼けだんだんを上がり、日暮里駅に到着。

例によって、この日も行く先が決まっていない。

JRなら山手・京浜東北・常磐の各線。

ほかに京成本線、日暮里・舎人ラーナーと選択肢は広い。

 

改札を入る前、残り少ないスイカにチャージしていて

不意に気が変わった、そうだ、バスにしよう。

日暮里からバスに乗ったことがなく、

何処へ行くか判らんけど、3路線くらいあったかな?

 

谷側のロータリーにエスカレーターを降りる。

最寄りのバスストップは見沼代親水公園行き。

さすがにこれはダメだ、遠すぎる。

すると、目の前に小走りのオネエさん一人。

広場中央に停車中のバスへまっしぐらだ。

てことはこのバス、間もなく発車するバス、もとい、するハズ。

誘われるように彼女に続くと、錦糸町行きだった。

 

ガラガラのバスの最後部に座ったら、すぐに発車オーライ!

下谷―竜泉―奥浅草―スカイツリーと経由する路線だ。

あまり考えずに奥浅草で降車し、観音裏を歩く。

21世紀初め、自分の縄張りだったエリアは驚くほどに様変わり。

行きつけた店もほとんど残っていない。

小料理屋「おかめ」、お好み焼き「立花」くらいだ。

 

言問通りを横断し、浅草最古のアーケード、ひさご通りを進む。

朝食が遅かったため、空腹感はない。

腹は減らずともノドは渇く。

年の瀬、池袋でも利用した「ほていちゃん」に吸い込まれた。

10 off の立ち飲みコーナーで黒ラベルの中ジョッキを通す。

此処には珍しくも江戸前の穴子刺しがある。

 

小姐に所望すると、刺身用の穴子がずっと入荷しておらず、

一本焼きか天ぷらなら出来ると言うので一本焼きを―。

注文を受けた彼女、奥の厨房に走った。

新年早々、走るオンナが多いなァ。

 

すると、右隣りで酎ハイを飲んでたオニイさんが

「天ぷらって言ってますヨ」

「えっ、あっ、こりゃどうも。お~い、焼きだヨ、焼きっ!

 揚げ物は食べたくなかったんで、助かりました」

「いいえ、良かった」

 

煮つめ、粉山椒、おろしを添えた江戸前の焼き穴子。

ナリは小さいが味はとてもよい。

中ジョッキをお替わりして、エンコの街に飛び出した。

まだ昼下がりで、表題みたいにたそがれてないんだけど、

物事には弾みってもんがありやすからネ、レイシツ!

 

「ほていちゃん 浅草店」

 東京都台東区浅草2-15-2

 03-6802-7780