2021年2月15日月曜日

第2590話 そんな女が居ぬ 亀戸に (その2)

「亀戸ぎょうざ本店」と同じ並びの「したぢ屋」。

素直そうな娘(こ)にドライの中ジョッキを伝えて

おもむろに壁のオススメに視線を移した。

カツレツ・餃子と継いできたからアッサリいきたい。

 

赤貝刺し(350円+)、ほうぼう刺し(250円+)に目を奪われる。

此の店、こんなに安かったかな?

どちらも好物だし、値段が値段だけにさしたる量もなかろう。

 

えゝい面倒だい この辺でノックアウトだい

 

とやると、裕次郎の「嵐を呼ぶ男」になっちまうので

えゝい面倒だい、両方ともいてまえ! てなもんや三度笠。

 

すると・・・赤貝はそこそこのポーション。

ほうぼうに至っては厚いのが6切れもあるじゃないか―。

正直言って、おそれおののきやしたネ。

 

両手で小さな輪を作りながら、例の娘に言いつけた。

「こんくらいで、ちょっと深めの容れ物くれる?」

同時に白鶴上撰生貯蔵酒の冷めたいヤツを発注。

 

届いた冷酒と卓上の生醤油を同割りにし、

ほうぼうを即席のづけに漬けこんだ。

1切れが大きいため、箸をナイフ&フォークのように操り、

それぞれを二分してみたが

これは不作法につき、マネはなさらないでください。

 

安かろう、悪かろうなんてことはまったくなく、

じゅうぶんに満足のいく魚貝たちだった。

同じ酒に漬けたのだ、白鶴とほうぼうが合わないわけもナシ。

 

願わくば、生酢と砂糖をもらい、甘酢に調合し、

赤貝をサッとくぐらせたいところながら

紅顔の美少年、じゃなかった、

抗癌の美中年、またまた間違えた、

厚顔の美高年もそこまでのわがままは通せやしない。

 

「したぢ屋」のもう一つのウリは焼きとん。

オススメにハツモトがあり、

これは焼き鳥であることを確かめたうえで

とんレバー(80円+)、とりハツモト(80円+)を1本づつ、

どちらもタレでお願いした。

ここで飲みものを中ジョッキに戻す。

 

焼き串はともに下町の水準をクリアして

とりわけハツモトがよかった。

小ぶりとはいえ、10個の餃子を平らげたあと、

すでに満腹となる。

 

接客の娘は、男らしさにしびれちゃうほど

恋路の場数を踏んじゃいないだろうが

こんな亀戸の夜もアリでござんしょう。

 

「したぢ屋」

 東京都江東区亀戸5-16-5

 03-5875-4995