2023年1月3日火曜日

第3180話 年の瀬に 笑み浮かべたり おかめそば (その1)

年が明けたら参詣客でごった返す浅草。
年内に行っておこうと出掛けた。
いえ、観音さまにお参りするのではなく、
そぞろ歩いて一杯飲れればそれで満足。

数日前に墨田区・石原の甘味処、
「尾張屋」を訪ねたので
その連想から日本そばの老舗、
「尾張屋」が思い浮かんだ。

雷門を挟んで本店・支店が同じ並びにある。
今日は永井荷風ゆかりの本店に赴く。
だいぶ昔のことで恐縮ながら
2003年に上梓した自著「浅草を食べる」で紹介した、
当店をダイジェストで再現してみたい。

=老舗の意外な変わりそば=      
 おすすめ:しそきり 天ぷらそば

’59年3月1日、ここのトイレで
永井荷風が倒れたという噂がある。
荷風最後の店ということでの信憑性は
「アリゾナキッチン」に分がありそうだが
どちらでもいいことで
体裁を気にする当人は草葉の陰で困惑していよう。

何といっても天ぷらそばの海老天が有名。
デカいというより長く、そして真っ直ぐだ。
串でも打たねばとてもああはなるまい。
車海老の天ぷら一尾の特天せいろ(1300円)は
海老の質に問題はないが
コロモの付けすぎで少々重たい。
大正海老二尾の天ぷらそば(1300円)を
大関と合わせてみると、
やはりここの天ぷらはかけつゆに浸したほうが
持ち味が出るようで
燗酒の良きパートナーとなってくれた。

つい最近、ガラスのサンプルケースに
しそ切り(700円)を見た。
ん? 「尾張屋」が変わりそばを? 
レジの女性に訊ねたらもともと
そば懐石や宴会メニューに組み入れており、
あまりに評判がいいので二年ほど前から
一般メニューにも載せているとのこと。
試してみると、
つゆの甘さが気になるものの、なかなかのデキ。
ただし、粉わさびは付けてくれなくて結構だ。

ちなみに最晩年の荷風は
かしわ南ばん(鳥南蛮)ばかりを食べ続けた。
歯が弱っていたのだろうか、
柔かい鶏むね肉がお気に召したようだ。

やはり年の瀬のそば屋は立て混む。
1階は満席、2階に上がった。
ドライの中瓶をクイッと飲り、
付いてきたあられをポリポリかじって
品書きを手に取った。

=つづく=