2023年5月3日水曜日

第3266話 みちのく酒場で 飲む酒は(その1)

読者は覚えておらりょうか?
2か月ほど前に余計な連絡をしてきた挙句、
前話の「CACOM」と同じ舞台の花川戸で
的外れのチキンライスで大きく外したあと、
どうにか鷺ノ宮のかつ丼で名誉回復した御仁をー。

あの件がきっかけで一献傾けようと相成ったが
此度も奴さん、店を提案して来た。
友人と谷根千散策の折、
フラリ訪れ、お気に召したとのことだ。

不忍通りからちょいと入った路地裏の「おばこ」は
かつて民謡酒場だったらしい。
何だってまた他人のテリトリーに
足を踏み入れて来るんだと思いつつも
存在を認知していながら未踏のため、素直に従った。
負うた子に教えられてる気分だ・

「J.C.みたいなお客さんと
 ご主人のやり取りを聴きながら
 お酒を飲んでいたいの」
「何だい、われわれは酒の肴かヨ」
こんなやりとりをS織と交わしながらの現地集合。

ドライの中瓶を注ぎ合ってカチン。
いずれも70代のご夫婦の切盛りは
店主が山形県・上山(かみのやま)、
女将は秋田県・西馬音内(にしもない)のご出身。
J.C.の知識では前者が競馬(すでに消滅)、
後者は東北の風の盆である。

ちなみに”おばこ”は彼の地で若い娘のこと。
女将はおばこの時代をとうに超えているし、
ツレのS織にしたってトウが立っている。
まっ、ここは我慢しよう。

真正面の品書きをジッと見つめ、
最初にピンと来たホヤ塩を通すと、
「おっ、お客さん判ってるネ」ー
店主からお褒めの言葉をちょうだいした。
いや、ホヤ塩とは初めて聞く言葉で
新しモノ好きとして刺激されただけのことだ。

ところがどっこい、
これが天下の珍味、本日のMVPだった。
シャリシャリと凍った状態で供され、
鮭のルイベみたいな半解凍ではなく、
言わばシャーベット状、
舌の上に濃密な旨味が拡がる。

訊けば一般的な三陸産ではなく、
道東・根室の赤ホヤだと言う。
こんな状態で出す発想力が素晴らしい。
今度はこちらがほめる番、その旨伝えると、
豆絞りの下に笑みが広がった。

=つづく~