2023年5月19日金曜日

第3278話 かつて明菜は のみともだった (その3)

結局は薬局、ゲームは振り出しに戻った。
ほうら、郷ひろみも歌い出したヨ。

♪   ふたりのゲームは 遊びを越えて
  ジョークと本気 スレスレの線
  たくらむ時には よく気があって
  退屈よりは 危険を選ぶ  
  可愛い顔して 上手の上手
  あなたが好き 
       でも向こうの 彼も素敵だわ ♪
    (作詞:阿木燿子)

「How many いい顔」は1980年秋のリリース。
それはそれとしてゲームは再開された。
とにかくたくらむ時にはよく気があって
よく遊んだ、よく飲んだ、ケンカもよくしたな。

一度なんか別れ際、愛車のドアに蹴りを入れられた。
幸いドアは凹まなかったけど、
歩道を通りすがったカップルが呆気にとられてた。
まっ、悪態つこうが、取り乱そうが
どこか可愛げのある、憎めないオンナではあったがネ。

一暴れも二暴れもしてNYをあとにして行った。
最後に逢ったのは東京出張の折。
遊びに来い! ってんで高輪のマンションへ。
「クルマ拾ったら三田から高輪に
 抜けてく道を真っ直ぐ来て」
「大ざっぱだなァ、そんなんで判るのかい?」
「ワタシが見てるからダイジョウブ」

ホントだった。
バルコニーから上半身を乗り出し、
両手を拡げて振ってやがんの。
「運転手さん、ここで停めて」
「あっ、ハイ!」

急ブレーキでもないけど、半急くらいかな。
タイヤがキキッと音を立てた。
これが交番の真ん前と来たもんだ。
おかげで運チャン、お巡りににらまれてやんの。

一人暮らしにしちゃ、
デカいリビングで余裕の独身生活。
ホテルの代わりにここで居候すりゃよかったな。

その夜は明菜の運転で麻布十番の割烹「H」へ。
いろいろチョコチョコつまみ、当方はもっぱら酒。
相方は無邪気にうに丼なんか食ってやがんの。
芝公園のホテルまで送ってもらい、
ハグして別れてそれっきり。
キャヴィアに始まり、うに丼で終わったわけだ。
あれから半世紀もの時が流れた。

いつか逢ったら思い出話に花を咲かそうと思うが
そうはいかない事情もある。」
明菜の里親にしてJ.C.の親友、
マイケル・シーマンは9.11の直撃を受け
還らぬ人となってしまった。
今もWTCの下に眠っている。

もし逢って語ればあの悲劇に言葉が及ぶのは必定。
避けて通ることはできない。
互いにそれが何よりもつらいのだ。

聞けば、彼女はこれから活動を活発化させる由。
明菜、J.C.はオマエを温かく見守ってるぜ、頑張れヨ。
ちなみに彼女のマイ・ベストは「十戒」であります。

=おしまい=