2023年5月17日水曜日

第3276話 かつて明菜は のみともだった (その1)

浪花の小姑・らびちゃんが早く書け、早く書けと
せっつくので中森明菜の思い出話 in NY。

あれは1993年のとある午後。
金融マーケットが閉まる時刻だった。
オフィスの同僚・マイケルが出し抜けに訊いてきた。
「J.C.、アキナ・ナカモリを知ってるか?」
「ああ、知ってるヨ」
「彼女は有名かい?」
「有名だよ、何だい、いきなり?」
「いや、いいんだ」

その翌日からJ.C.は東京出張。
2週間ほどして帰米し、出勤に及ぶと再びマイケル。
「アキナは有名なのか?」
「有名だって言ったじゃないか」
「ベリー・フェイマスか?」
「ああ、そうだとも、ベリー。ベリーな」
「実は彼女、今オレんチにいるんだ」
「ハァ~!?」

てっきり誰かに明菜のポスターでももらって
部屋に飾ってあるんだろう、くらいに思ったが
ヤツはいたって真面目、どうやら真実らしい。

「明日の土曜は何してる?」
「お前も知ってる桃子の店でヘアカット」
「店はどこ?」
「カーネギー・ホールの横に
 『ロシアン・ティールーム』あるだろ?
 57th St を挟んで真ん前の2階だヨ」

そして土曜の夕刻。
予告もなしにマイケルがサロンに現れた。
携帯なんかまだない時代だからネ。
こちとら上半身をビニール・マントに着替え、
シャンプーの直前だった。

「ちょっと、こっちに来て」ー
誘われて窓際に立ち、下の車道を見下ろすと
彼の車の助手席に女性の姿あり。
顔は見えなかったが小さな膝小僧が二つ。
「アレ明菜だヨ、
 キャヴィァを食いたいって言うんだ、
 つき合ってくれないか?」

ヘアカットは中断、いや、まだ切り始めてもいない。
「桃チャン、てなわけだからカットは明日だ」
「うん、判ったわ」
男たちはそそくさと階下へ。

これが明菜との出逢いだった。
三人はワシントン広場のアメリカ料理店へ。
キャヴィアとブリヌイ(そば粉のパンケーキ)に
あと何だったけな? 

おそらく蟹肉たっぷりのクラブケーキに
メカジキ好きのマイケルはそのグリルだったハズ。
シャンパーニュのグラスを傾けながら
事のいきさつを聞かされたのだった。

=つづく=