2024年12月12日木曜日

第3687話 温かな昼下がり (その3)

玉の井と向島を分け隔てる鳩の街。
おでん屋の店先でブッ倒れそうになった。
何と屋号が「佃忠」と来たもんだ。
実は前日、タバギンの「佃忠」に立ち寄った。

生憎、厚揚げと餅巾着しか残っておらず、
ガラスケースはスッカラカン。
またもや鮮魚店「魚壮」に迂回したのだった。
それにしても昨日の今日で「佃忠」アゲイン。
単なる偶然とは思えぬ自分がいた。

店の女将に
「田端銀座の『佃忠』さんとはお仲間?」
「エッ? ええ、まァ」
あまり話したくないみたいだが、重ねて
「暖簾分けとか?」
「あっちは弟がやっていて・・・」
「じゃあ、貴女がお姉さん?」
「そうです」
「いえ、昨日ネ、寄ったら売り切れてました」
「あっちもそこそこ売れてますからネ」

せっかくなので買いました。
ずいぶんと、いや、しこたま。
つみれ・ボール・昆布は10個単位。
あとは、ごぼ巻き・いか巻き・△揚げ・
餅巾着を2個づつ、締めて1760円也。
こりゃ、3日は食べ続けなきゃならん。

鳩の街を突っ切り、水戸街道に出たとき、
聞き覚えのあるワアワア、わあわあ。
ありゃりゃ、さっきそば屋「ともえ」で
出食わした5人組が左側からやって来た。
店でも道路でもやたらにかしましい連中だ。

酒とつまみだけで、長居はしてない様子。
彼らが鳩の街に入ってゆく。
ん? いったい何処へ?
男はスーツ、女性は和装・洋装が二人づつ。
後姿を見送りながら、ふと好奇心が疼いた。
よせばいいのに彼らを尾行し始めちまった。

迷路のような狭い路地に入り、
あちこち迷いながらも到達したのは
「千代田」なる立派な料亭。
入口で記念写真なんぞ撮ってるヨ。

すると他にも続々と来訪者が現れた。
女のほうが多いけど、男もちらほら。
ほとんどが和服姿である。
はは~ん、これは小唄の発表会だな。
かつて経験のある J.C.にはピンと来た。

「探偵物語」はこれにておしまい。
歩行者専用橋、桜橋で隅田川を渡る。
午後の陽射しが川面に光り、
キラキラとまぶしい。

=つづく=

「佃忠蒲鉾店」
 東京都墨田区向島5-49-5
 03-3614-2604