2012年5月9日水曜日

第312話 アルツの予兆かもしれぬ (その1)

その日はあまりパッとしない天気の下、
JR中央線の中野駅北口にいた。
所用を済ませて時刻は10時45分。
昼めしにはまだちと早い。

中野でのランチとなれば第一感は「住友」であろう。
何で銀行で昼めしを食うんだヨ! ってか?
こういう早とちりの読者も中におられましょうが
「住友」は銀行じゃ、ありやせんぜ、
天丼が自慢の天ぷら屋なんざんす。
銀行は三井住友が正しい。

しかしながら「住友」の開くのは11時半。
45分も待つのは時間の無駄だし、
胃袋がすでに空腹を訴えている。
そこで早開きの店舗を求めて北口を徘徊し始めた。
11時前に営業しているのはチェーン店ばかり。
個人経営は喫茶店と甘味処兼軽食堂くらいなものだ。

目につくのは「マック」・「ロッテリア」・「日高屋」・「かつや」、
こんなんばかりやねん、ハア~。
確かに安くて速いのはいいことだけど、
人間50歳を超えたら、一食一食をもっと大事にせにゃならん。
いい歳こいたオヤジが独りでチェーン店ってのは
傍目にもあまりいいもんじゃあない。
それに外食チェーンの行過ぎたはびこりは
民族の食文化を破壊する。
金儲けに文化を侵食されたひにゃ、たまったもんじゃないわいな。

歩き回って11時過ぎ、1軒のラーメン屋を発見した。
ラーメン屋で”発見”はオーバーだが
J.C.の好きな函館ラーメンの店なのだ。
店名は「大門」で、これは”だいもん”と読むのだろう。

ちなみに東京には二つの有名な大門が存在する。
ラーメン屋ではなく門(ゲート)のハナシで
芝・増上寺の大門と浅草・吉原の大門である。
ただし、この二つは読み方が異なり、
前者は”だいもん”だが、後者は”おおもん”だ。
いくらなんでも仏閣と廓(くるわ)を一緒くたにして
聖と俗を混ぜこぜにはできない。
結界の理念は大切だからネ。

ハナシを元に戻して函館ラーメン。
そもそも札幌の味噌、旭川の醤油、
函館の塩が北海道の三大ラーメンという認識。
三者の中では函館の塩が一番の気に入りなのだ。
よって「住友」の天丼はあきらめ、「大門」に入店。

「いらっしゃいませ~!」―元気なオニイさんの声に
「塩そばください」―こう応じる。
するとオニイさん、入口の方向をを指して
「食券をお願いします」―ちょいと申し訳なさそうではあった。

塩そばは650円だったがポケットを探るとコインは450円。
そこでまず150円を投入し、千円札で追いかける。
おもむろに塩そばのボタンを押し、おつりのレバーを引いた。
当然500円玉を期待したものの100円玉がジャラジャラッと。
何だこれじゃ意味ないじゃん。
意味ないどころか100円玉が4枚しか出て来ないじゃん。

=つづく=