2012年5月18日金曜日

第319話 カナダの仔牛とフランスのエイ (その1)

 ♪ 現在・過去・未来 あの人に逢ったなら
   私はいつまでも待ってると 誰か伝えて
   まるで喜劇じゃないの ひとりでいい気になって
   冷めかけたあの人に 意地をはってたなんて
   ひとつ曲り角 ひとつ間違えて 迷い道くねくね ♪
                (作詞:渡辺真知子)

あれは1978年の夏。
飛騨・高山を旅していたときのこと。
前年末にリリースされた「迷い道」が
日本国中に流れており、山深い小京都も例外ではなかった。
懐かしいこの曲を聴くたびに
高山の町の光景が脳裏をよぎるのはこのためである。

千駄木の三崎坂(さんさきざか)と
根津の善光寺坂を結ぶように
裏道がくねくねとのた打っている。
地元ではへび道と呼ばれており、
直下に今では暗渠(あんきょ)となった藍染川が流れている。

よく散歩するエリアだから
ポツリポツリと散在する店々はすべて認知している。
鴨せいろが自慢の「手打そば 三里」は去年訪れた。
その向かいの「蛇の目寿司」は友人のススメもあって
近いうちに出向くつもりでいる。

「三里」の隣りの「ビストロ シャノアール」は
常々興味を抱いていた店だった。
店先に貼り出されたメニューの品数はけして多くはないのに
シェフの気持ちが伝わって来ていたからネ。
どこでも手掛けている安直な料理ばかりを目にすると、
もうそれだけで食べる気が失せてしまう。
シェフからのメッセージを
料理から感じ取れないようなメニューではダメなのだ。
その点、ココはイケていた。
食べ手の好みもあろうがJ.C.の目には魅力的に映ったのだ。

いつか訪ねてみようと思っていたものの、
なかなか機会を見出せないままでいた。
そんな背中を押してくれたのが
「FRIDAY」の担当編集者・K原サン。
連載開始にあたり、初めての打合わせの際、
彼が選んだのが「ビストロ シャノアール」だったというワケだ。

厚切りサーモンのマリネ、鶏レバーのテリーヌ、
うずらとフォワグラのアン・クルート(パイ包み焼き)で
チリ産のピノ・ノワールを飲んだ。
気に染まったのはアン・クルートである。
あのポール・ボキューズが
白身魚のすずきで始めたクラシック・フレンチの傑作は
中身が何であれ、”あったら頼む”の必注科目。
殊にうずらは大好きだし、
仔羊のマリア・カラス風なんぞはどうにもヨダレが止まらない。

ウラを返して再びこの店の料理をゆっくり味わいたいという、
念願がかなったのはGWが開けてまもなくの一夜であった。

=つづく=