2012年5月22日火曜日

第321話 カナダの仔牛とフランスのエイ (その3)

さあ、ようやく「シャノアール」の夕食にありつける。
今宵の相方は40年来の知己、Y沢クンだ。
バイト先で知り合ったのが1972 年の夏。
苦楽をともにした仲だから思い出話が尽きることはない。

その年は新年早々、グアム島のジャングルから
恥ずかしながらの横井サンが出て来たかと思ったら
厳寒の軽井沢では浅間山荘事件。
札幌冬季五輪や沖縄返還など明るいニュースの一方で
千日デパート、北陸トンネル内の火災事故では
多くの犠牲者を出している。

それでも春から夏にかけて東京の街には
「瀬戸の花嫁」と「旅の宿」が流れていた。
正しい日本語の、”ひらがな”が似合う曲たちであった。
「学生街の喫茶店」もこの年のヒット曲だったねェ。

またハナシがそれちゃった。
エニウェイ、「シャノアール」で選んだオードヴルは
イベリコ豚とパプリカのアスピック(850円)。
アスピックは平たく言えばゼリー寄せのことだ。
ホテルの宴会に多用される料理で
かつてのホテルマン好みの一品と言えなくもない。

続いては甘海老のラヴィオリ(1290円)。
甘海老自身の殻で出汁がとられ、
アルモリケンヌソース特有の甲殻類の風味が漂う。
ラヴィオリの下にはマッシュドポテトが敷かれていた。

次に登場したのが表題の片翼を担う、
フランス産エイのムニエル ブール・ノワゼット(1890円)。
ブールはバター、ノワゼットはハシバミで焦がしバターのことだ。
ハシバミはヘーゼルナッツと思っていただければ、おおむね正解。
原発関連以外なら”おおむね”なる言葉も許されよう。

ところが期待の一皿にもかかわらず、エイがパサついて不出来。
フランスからの輸入物は当然のように冷凍品だったが
白身系の魚介類はもともと冷凍に向かない。
ソースが美味だっただけに残念なり。

フランスの仇はカナダで討て!
ケベック産仔牛バヴェットのポワレ エシャロットソースが
エイの失点をカバーして余りあった。
180グラムで2290円は黒毛和牛よりずっとお食べ得。
しかも稀少なバヴェット(ハラミ)は旨みたっぷりだった。

それにつけてもケベックかァ・・・懐かしいなァ。
旅したのは四半世紀も前のこと。
フランス系移民が入植して築いたケベックは
水と緑に恵まれた食文化のレベルが高い街。
ごく普通のスーパーで仔牛やウサギが売られていたものだ。

やれ近江だ、やれ松阪だと、
脂っこい霜降りばかりに目の色変える日本人は
まだまだお子チャマもいいところ。
それもそうだヨ、肉を食べ始めてたかだか140年、
その程度の肉食文化しか持ち合わせていないんだもんネ。

=おしまい=

「ビストロ シャノアール」 
 東京都文京区千駄木2-49-8
 03-5834-7075