2014年4月15日火曜日

第816話 灯ともし頃のうな串 (その5)

一昔前の食日記を紹介したおかげで
1軒のうなぎ屋をずいぶんと引っ張ってしまった。
「いいかげんにしなさいっ!」―そう思われた読者もおられるだろう。
よって、今話でお開きといたします。

5本セットの最初の一串は肝だった。
肝は当然、肝臓だからレバーのことだが
この手の店では通常、腸管などが代用されて
レバーは取り置きされ、純なレバー串として供される。
J.C.的にはどちらもそれ相応に好き。
ただ”肝”より”レバー”のほうが
稀少にして高価だから、有り難みが増すのは確かだ。

2本目はは串巻き。
他店では身をくねらせるように串を打ち、
くりからと呼ばれたりもする。
これはまずまずの味わいだった。

続いてのバラは脂が乗りのり。
こってりしたうなぎを好む向きにはたまらないだろう。
ビールで口中を洗い、ネクストに備える。
小瓶にしたからこの時点で瓶は空(から)になってしまった。
お替わりしたいが当夜は人と会い、一献傾けなければならない。
控えておく。

4本目はエリ。
「エリって何だ?」―当然の疑問でありましょう。
”襟”のことで、主にあっちゃこっちゃのヒレの寄せ集め。
これだけは塩焼きで来た。
ときどきコリッと固い部分が歯に当たる。
妙味はあるものの、川魚特有の泥臭さも感じる。
匂いに敏感な人には気になろう。

最後の1本は八幡巻き。
いわゆるうなぎのゴボ巻きである。
一口パクリとやった第一感は
おお、ゴボウがうなぎの臭みをずいぶん和らげているというもの。
そして両者の相性がなかなかによろしい。

味わっていてひらめいた。
そうか! ゴボウは川魚の匂い消しの役目を果たしているのだ。
どぜうの柳川鍋にしたって
けっこうな量のささがきゴボウがあしらわれているもの。
これが海水魚ならば、生姜がその役目を担うわけだ。
鯵のたたきや鯖の味噌煮は生姜なくして成り立たぬ。
川魚とゴボウの相関関係に気づいただけでも
「川二郎」の訪問は無駄ではなかった。

ビールの小瓶にキャベツの浅漬け、
うな串5本のお勘定は締めて1800円也。
今どき、真っ当なうな重は
それだけでも3千円近くするんじゃなかろうか。
うなぎの稀少な部位を堪能してこの値段は
食べなきゃ損ソンのお食べ得といえましょう。

=おしまい=

「川二郎」
 東京都中野区中野5-55-10
 03-3389-4192