2014年4月17日木曜日

第818話 桜も散ればアカシヤも散る (その2)

「文豪の味を食べる」における、裕次郎の稿のつづき。

 以来、平和島にほど近い商店街・美原通りにあった映画館で
 裕次郎映画を何本観たことだろう。
 当時の青少年のハートをつかんで離さなかったのは
 スクリーンの石原裕次郎とスタジアムの長嶋茂雄だったのだ。
 やがて二人は生まれついた兄弟の如くに親交を深めてゆく。

 数ある裕次郎映画の中から選んだ、わが心のベストスリーはかくの如し。

 ①「俺は待ってるぜ」(監督:蔵原惟繕)
  理屈抜きに好き。全編に渡って映画俳優・石原裕次郎と
  港町・横浜のエッセンスに満ちている。
  相手役が浅丘ルリ子では画面になじまず、
  北原三枝の冷たくも涼やかな面立ちが必要不可欠。

 ②「赤いハンカチ」(監督:舛田利雄)
  ギターを抱えた裕次郎が夜の街を弾き語る。
  自身のヒット曲をフィーチャーした映画の中では
  もっともスムースに名曲がスクリーンに溶け込んでいる。
  相手役が北原三枝では芝居にならず、
  浅丘ルリ子のうるんだ瞳が必要不可欠。

 ③「嵐を呼ぶ男」(監督:井上梅次)
  単純な筋書きのようでありながら、
  際立ったストーリー性が冴えわたる。
  父子から、母子に置き換えられているが
  ジェームス・ディーンの「エデンの東」の焼き直しでは?
  という疑念が湧くほど。
  ドラムスの競演シーンで歌う裕次郎の突き抜け感が新鮮。
  このときすでに大スターの出現を予感させた。

ついでに、レコーディングされた歌のお気に入り三曲。

 ①「北国の空は燃えている」(作詞:岩谷時子 作曲:平尾昌晃)
 ②「赤いハンカチ」(作詞:萩原四朗 作曲:上原賢六.)
 ③「よこはま物語」(作詞:なかにし礼 作曲:浜圭介)

 哀切を帯びた旋律が裕次郎の声色と溶け合う曲ばかりになった。
 よく知られているように、神戸で生まれ、
 小樽、逗子と海の見える土地で育った裕次郎はヨットを愛した。

 余談だが、同じ湘南の海でヨットを愛好した俳優に加山雄三がいる。
 同様の趣味を持ちながら、これほど雰囲気の異なる二人は珍しい。
 裕次郎の主演映画には「銀座の恋の物語」があり、
 加山には「銀座の恋人たち」と「銀座の若大将」があって、
 陸(おか)に上がっても、活躍の場が重なることさえあった。

 どちらもアクションをこなす俳優でありつつ、
 裕次郎には石坂洋次郎原作の「あいつと私」や「陽のあたる坂道」があり、
 加山には成瀬巳喜男監督の「乱れる」と「乱れ雲」があるから
 文芸作品においてもそれぞれに持ち味を発揮した。

=つづく=