2014年9月9日火曜日

第921話 こち亀タウンに出没 (その7)

こち亀タウンの「遊膳」に入店した。
出てきたオーナーと思しき初老の女性に
先客のいるカウンターへと導かれる。

ザッと見、店内の雰囲気は喫茶店と洋食屋の中間感じ。
居心地は悪くなさそうだ。
そもそも散策の途中、
「遊膳」に心惹かれたのは店頭にあった品書きだった。

その日は、コチ・真子がれい・ホウボウと、
白身魚の品揃えが充実していた。
白身の有無はその店のデリカシーを推し量るバロメーターなのだ。
刺身に限ったことではなく、
白身を使いたがる料理人の料理はデキのよいことが多い。
これは長年の経験から自身を持って断言できる。

ビールを1杯飲み干すと突き出しの3点セットが供される。
鳥皮ポン酢、大きめのじゃこ、小松菜のびたしだ。
いずれも可も不可もないといったところか。
今後の料理に期待を抱かせるほどではない。

いかにもJ.C.好み、
昆布〆2種盛合わせを目にとめて店主に内容を訊ねた。
この店は母と息子の二人三脚で切盛りしている様子。
店主応えて曰く、
「金目鯛と真子がれいになります」―
思い描いたベストコンビはコチと真子だったが
金目が代替しても不足はない、即刻お願いした。

ニセわさびが残念ながら、
まずまずの仕上がりにビールを追加する。
同時に水茄子を注文した。
何だかこの夏、あちこちで水茄子を食している。
さすがに泉州・岸和田の銘産も飽きつつあるが
恰好の箸休めにつき、つい食指が動いてしまう。

ここは亀有、サカナはおそらく、
千住大橋の足立市場で仕入れるのだろう。
店主に確認すると、千住ではなく松戸だという。
「エッ、松戸!松戸に市場はないでしょう?」  ―
「野菊野に団地があるんですが
 そこに小さな市場があるんですヨ」 ―
野菊野かァ、懐かしいなァと感じた瞬間、
ハタと思い当たって膝ポン!

あれは34年前。
金融界に身を投じたときは二十代の終わりだった。
職場に野菊野団地に住んでいる先輩がいて
一夜、自宅に招かれたことがあった。
奥さんの手料理を馳走になったが
その中に金目鯛の刺身とバタ焼きがあったっけ・・・。
野菊野の金目、タイムマシーンに乗り込んだような気分である。

=つづく=