2014年9月10日水曜日

第922話 こち亀タウンに出没 (その8)

夕陽がニューヨークの西空を金色に染めていた。
マンハッタンの高層ビル群が美しいシルエットを描いている。
その上空をラガーディア空港に舞い降りるのだろう、
ジェット機がゆるゆると降下しながら横切ってゆく。

とうとう錦織圭が力つきてしまった。
チリッチの爆烈サーヴに手も足も出なかった。
あまりにも一方的に過ぎて
手に汗を握るシーンはついに訪れなかった。
グレート・サーヴァーがスマート・ストローカーを翻弄した恰好、
柔よく剛を制すること適わずであった。

Kには来年、
ローラン・ギャロス(全仏)で頂点に立つことを期待したい。
すでに彼はクレーコートのスペシャリストだからネ。
とにかく陽はまだ昇りきらずの感、大いにあり。

われに還って、こち亀タウンのつづきである。
読者諸兄もそろそろ飽きられてきた頃合いながら
いま少し、ご辛抱をお願いいたしまする。

和食店「遊膳」の金目鯛に触発されて
はるか昔の夕食メニューがまざまざとよみがえった。
当時はまだ食日記を付けてもいないのに
瞬時に思い出せたのは記憶力の賜物、
と言いたいところなれど、そうではない。

当時、金目鯛は広く世に流通しており、
比較的ポピュラーな魚種だったものの、
ほとんど煮付け専用といった位置付け。
あとは冬場の鍋ものに使われるのと、
市販の西京漬けがせいぜいだった。
やはり刺身とバタ焼きは新鮮にしてインパクトが強かったのだろう。

当夜の晩酌を先に進めなければ―。
ビールから日本酒に切り替えた。
”ひめでつる”なる聞きなれない銘柄だ。
これをぬる燗にしてもらった。

サカナ系以外の一品が合いの手にほしい。
となると、豆腐か野菜か肉系か・・・。
慎重に選んだのは牛スジと新じゃがを使用した肉じゃが。
店で肉じゃがを注文することはめったにない。
ましてや独りのときに頼んだ記憶はまったくない。
好きではないのだろう・・・いや、むしろ嫌いなのかも・・・。
ポテトサラダはしょっちゅうお願いしてるのにネ。
此度は牛スジより新じゃがに惹かれたのだと思う。

日本酒によく合ういかの塩辛を母親がサービスしてくれた。
景気が悪く客足が鈍いと嘆く彼女のボヤきをしばし聞かされる。
そうしてのお勘定は締めて3740円也、まあ、妥当な線と言えよう。

夜の町に出て駅へと急ぐ。
都心に戻る電車はすでに最終の1本前であった。

=つづく=

「遊膳」
 東京都葛飾区亀有3-11-14
 03-3603-1060