2014年12月15日月曜日

第990話 イスキアの光よ パリの影よ (その4)

最近のメトロポリタン・オペラハウスの人気演目となれば、
2001年の悲劇を体験したあとは
ヴェルディの「椿姫」、「リゴレット」、「仮面舞踏会」や
プッチーニなら「トスカ」か「蝶々夫人」、
あるいはベルカント・オペラの代表作、
ドニゼッティの「ランメルモールのルチア」、
ベッリーニの「ノルマ」、「カプレッティとモンテッキ」あたりが
注目されているのかもしれない。

ちなみに「カプレッティとモンテッキ」は「ロミオとジュリエット」。
もっともメトはベッリーニをほとんど取り上げない。
シチリア出身のこの作曲家は悲劇的に過ぎる。
アメリカ人には基本的にマイナー・コードを好まぬ傾向がある。
その点、ロシア人と真逆と言い切ってよいくらいだ。

おっと、カラスのパリのはずがニューヨークに飛んじまった。
ハナシを戻そう。
1950年代に全盛を誇ったマリア・カラス。
’60年代に入るとすでに高音域が乱れ、
最後のステージとなった’74年の日本公演は見るも無残の惨状。
しかしそれでもなお、カラスの前にカラスなく、
カラスのあとにカラスなしなのだ。

朝霧に抱かれた湖のように薄いヴェールのかかった声音。
例によって彼女のマイ・ベストテンとまいりましょう。

① トスカ(トスカ)
② ノルマ(ノルマ)
③ 椿姫(ヴィオレッタ)
④ ランメルモールのルチア(ルチア)
⑤ リゴレット(ジルダ)
⑥ カルメン(カルメン)
⑦ セビリアの理髪師(ロジーナ)
⑧ アンナ・ボレーナ(アンナ)
⑨ カヴァレリア・ルスティカーナ(サントゥッツァ)
⑩ 仮面舞踏会(アメリア)
 次点: シチリア島の夕べの祈り(エレナ)
      ( )内は役柄名

オペラ全体ではなく、アリア1曲を選ぶとすると、
「ノルマ」の「清らかな女神(カスタ・ディーヴァ)」が
ベストかもしれない。
でも「トスカ」の「愛に生き、恋に生き」も
けっして負けるものではないし、
何よりも役柄的にトスカが一番のハマリ役なのだ。

それもそうだヨ、トスカはローマの歌姫につき、
地で歌い、地で演ずればいいんだからネ。
そしてコンサート形式でなく、
オペラとしての映像が残されているのは
ロンドンのロイヤル・オペラ(コヴェント・ガーデン)における、
「トスカ」の第2幕だけなのである。

毒殺説もささやかれるカラスの死。
パリで亡くなったときに53歳だった。
美貌と美声の持ち主は薄命だったが
にっぽんの歌姫・美空ひばりより、2歳ほど長く生きたのでした。

=おしまい=