2014年12月1日月曜日

第980話 巨星は星の彼方に (その5)

健サン映画のマイ・セカンドベストは
大方の予想に反して「夜叉」。
1985年公開作品の監督は降旗康男、
舞台は北陸の福井県・敦賀だ。

健サンはもと大阪・ミナミの伝説的ヤクザ。
ウブな娘、いしだあゆみと出会い、
足を洗う約束のもと、所帯を持って今は
若狭湾で漁師をしている。

いしだあゆみは小・中学生時代のJ.C.のアイドルだった。
あとにも先にもブロマイドを買ったのはわが人生で彼女のみ。
TVドラマの「七人の侍」、もとい、「七人の孫」に出演していたが
歌手としてのいしだあゆみこそがマイ・アイドル。

この女(ひと)はセシルカットのよく似合う明るい歌い手だった。
「ブルー・ライト・ヨコハマ」でブレイクする以前、
「サチオ君」や「緑の乙女」を歌っていた初期が一番よかった。
それがちょっと目を離しているすきに女優道まっしぐら。
結果として成功したが、どこか不幸の匂いの染みついた、
”かげり”のある女性に変身してしまった。
以来ずっと”かげり”を引きずって今日(こんにち)にいたっている。

そう言えば、寅さんシリーズの「男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋」で
ヒロインを演じたときの役名が”かげり”じゃなかったかな?
いえ、いえ、そんな不吉な名前はあるはずもなく、
実際は”かげり”じゃなくって”かがり”でありました。

「夜叉」では平和な漁港にもう一人のヒロイン、
田中裕子が現れて居酒屋「蛍(ほたる)」を開くのだが
彼女のヒモがシャブの売人、ビートたけしときたもんだ。
ここからハナシは急展開で動き始める。
健サン最晩年の相手役はもっぱら田中裕子。
「夜叉」は両者初共演のメモリアル・ムービーである。

健サンの背中にビッシリ彫られた夜叉の刺青がすばらしい。
残侠伝シリーズの唐獅子牡丹の上をゆくほどの墨だった。
ミナミと若狭のコントラスト鮮やかにして
バックに流れる音楽も”完の璧”、
好きなんだよねェ、こういう映画。
ヤクザと漁師の二つの顔にゃ、いや、マイりましたわジッサイ。

そして第三位は同じ降旗監督で1981年公開の「駅 STATION」。
脚本を「北の国から」の倉本聰が担当しており、
この人となれば、お約束の如く舞台は北海道となる。
珍しくも健サンはヤクザでも前科者でもなく北海道警の警察官。

映画はオムニバスを想起させる仕立てで
登場する俳優陣もオールスター・キャストと言い切って過言ではない。
ポイントとなるのが3人の女性たち。
いしだあゆみ、烏丸せつこ、倍賞千恵子であった。

=つづく=