2014年12月26日金曜日

第999話 北の横丁をさすらう (その7)

夜の仙台。
一昨夜は文化横丁の餃子屋「八仙」で飲んだ。
ビールのほかに老中(ママ)も2合ほどネ。
とてもいい酒だった。
いや、老酒自体ではなく、場の雰囲気と自分の気分がだ。

仙台二大横丁の文化横丁は訪れたから
次はもう片方の雄、壱弐参(いろは)横丁にゆくべし。
十数年前、この横丁の居酒屋で一夜飲んだ記憶がある。
古いダイアリーを調べれば、どこで何を飲食したのか
詳細が判明するはずだが近頃は何をするのも面倒にして億劫、
気が向くまでうっちゃっておくことにする。

午後は歩いた、歩いた、あっちゃこっちゃと―。
ときには陽射しの中を、またときには寒風に吹かれながら―。
でも、ちょっと繁華街を外れるだけで
うらさびしい景色が目に映るため、足はすぐにUターン、
市の中心に2軒あるデパートの地下にもぐりこもうとするのだった。
何もパルチザンや反政府組織だけが地下にもぐるわけじゃない。

 ♪ 宵闇せまれば 悩みは果てなし
   みだるる心に うつるは誰が影
   君恋し 唇あせねど
   涙はあふれて 今宵も更け行く ♪
        (作詞:時雨音羽)

昭和36年、フランク永井が戦前の佳曲をカバーして
レコード大賞を獲得した「君恋し」。
オリジナルは二村定一が歌い、昭和4年にリリースされている。

とにもかくにも北国の宵闇がせまり、夜の帳(とばり)は降りた。
壱弐参横丁を2周半して吟味に吟味を重ね、
意を決して飛び込んだのが「金八」なる居酒屋である。
決断を促したのは店先の品書きだった。
ソレがコレ
シンプルきわまりない。
余計な料理の羅列が一切ないでしょう?
生モノと焼きモノ以外は真子がれいの煮付けが一品あるのみ。
仕入れたサカナに自信がなければ、とてもこうはいかない。
しかも平目と鰈(かれい)に赤字で”つり”を謳ってござる。
つり”はもちろん”釣り”のこと。

店内はやけに狭かった。
カウンターが5席ほど、あとは小上がりに1卓しかない。
5席のうちの左はしに腰を下ろして生ビールの中ジョッキを所望する。
生を搾った女将がすかさず並べたオッツケの突き出しを
一瞥(いちべつ)したJ.C.の顔に落胆の色が浮かび上がる。
正直言って少々ガッカリ。
とまれ、ご覧あられたし。
切り昆布と白和え
まっ、平目か鰈が食えりゃあ、それでいいわい。

=つづく=