2016年9月22日木曜日

第1453話 鱸と眼張 (その1)

先の三連休のあいだ、久しぶりにのんびりとTVを観た。
話題はもっぱら築地から豊洲への移転問題で
盛り土不全と溜まり水が焦点となっている。
移転賛成派と反対派もかんかんがくがく、
まっことかまびすしい。

歌舞伎役者の不倫も繰り返し報道されていた。
昔っから梨園における女遊びは
芸の肥やしなんぞといわれ、半ば公認されてきた。
でもネ、考えてもごらんヨ。
浮気や不倫で培われた芸なんざしょせんタカが知れてる。
そんなもん観たくもねェや。

表題の「鱸と眼張」。
ちょいと難しい漢字かもしれない。
これは「スズキとメバル」と読みます。
阿川弘之のユーモア短篇小説に「鱸とおこぜ」があるが
今話の主役は鱸と眼張である。

ともに食味のよいサカナで
殊にスズキはフランスでバール、またはルー・ド・メール(海の狼)、
イタリアではスピゴラ、あるいはブランツィーノと称され、
高級魚として珍重されている。

ポール・ボキューズの代表的スペシャリテ、
バール・アン・クルートはスズキのパイ包み焼きのこと。
仔羊のマリア・カラス風、牛フィレ肉のウエリントン、
パイで包んで焼き上げる料理には目のないJ.C.であります。

八月初旬、この2種類のサカナを食する機会に恵まれた。
最初に鱸である。
浅草は雷門脇の「ときわ食堂」をちょい飲みに利用した際、
つまみに選んだのがスズキの昆布〆だ。
白身魚の昆布〆も大好きだから期待度は高まる。

さあ、どんな美味が到来するやら・・・
想像しただけで飲むビールの旨さまで増すから不思議だ。
ところが運ばれた皿を一べつしてイヤな予感。
見た目に冴えがない。

案の定、一箸つけて箸を置く。
おそらく前の晩に刺身で出したモノの使い回しだろう。
素材の旨味がすでに峠を越えている。
越えたどころか下り切ってしまっている。
白身魚の昆布〆というものは
刺身でいけるほどに新鮮な段階で仕込まねばならない。
真っ当な江戸前鮨店は必ずそうするハズだ。

ほかにめぼしい代替品は見つからない。
もっとも生モノを再注するつもりはまったくないけどネ。
仕方なく鍋仕立てのニラ玉に救いを求め、
ものの30分で夜の街に出たのでありました。

=つづく=

「浅草 ときわ食堂」
 東京都台東区浅草1-3-3
 03-3847-8845