2018年12月12日水曜日

第2022話 月夜の丸焼き (その1)

駒込で紅葉と牡丹を賞味して
次回は桜をいただこうと思ったJ.C.だが
桜の代わりに月夜を味わうことと相成った。
月夜であって月見じゃないから
名月を愛でるわけではけっしてない。

サンドウイッチマンじゃないけれど、
「ちょっと何言ってるか判らない」ってか?
月夜というのは肉食禁止令に背中を向けた隠語で
馬肉を桜肉と呼ぶ如く、うさぎ肉を月夜というんです。

紅葉、牡丹、隠語の由来はさまざまですが
うさぎ→月夜
その因となった昔話は悲しくも心温まる物語。
ちょいとググればすぐヒットするので
もしもあなたがおさな子を持つパパやママなら
ぜひお子さんに話してあげてください。
のちのち必ずや心根の優しい人間に育ちますから―。
間違ってもあおり運転なんかしない真っ当なヒトにネ。

さて、やって来たのはJR埼京線・十条駅。
先の大戦に敗れるまで
赤羽・王子・滝野川を擁する北区のこの一帯は
大日本帝国の一大軍都であった。

造兵廠、補給廠、火工廠射撃所、火薬製造所、
火薬庫、本被服廠などがみな集まっていた。
現存する自衛隊駐屯地や武器補給処は
その残滓以外の何物でもない。

思い起こされるのは被服廠である。
1923年の関東大震災で
もっとも多くの犠牲者を出した場所は
墨田区・横網の被服廠跡(現横網公園)。

陸軍はこの前年に被服廠を横網から赤羽に移したが
もしもこの移転が2年遅れていたなら
同地における公園造成も開始されておらず、
被災した人々が非難するスペースもなかったハズだ。

震災による死者総数は
10万5千(行方不明者を含む)とされているが
驚くべきことにそのうち3万8千人が
この狭い一画で命を落としたのだ。
歴史に if などないことを痛感させられる。

軍事都市の一翼を担った十条の夜。
ロータリーのある西口とは対照的に
寂れた田舎の改札といったふうの西口。
その真ん前にクルド料理店、
「メソポタミア」はありました。

=つづく=