2018年12月14日金曜日

第2024話 月夜の丸焼き (その3)

こんがり焼かれた丸一尾のうさぎサン。
正しくは一羽と数えるのだろうが
そんなことはお構いなしに、いよいよ戦闘開始である。

この際、ナイフ&フォークなんか使っちゃいられない。
一同、手づかみで挑みかかった。
みんなが各部位を楽しめるように
一点集中をいさめながら食べ進んでいった。

鞍下肉をひっくり返すと臓物もバッチリである。
肝臓・腎臓・脾臓、内臓トリオの揃い踏みがうれしい。
レバーのみ火が通り過ぎてパサつくものの、
ほかの2つは滋味たっぷり。
チキンにせよラビットにせよ、丸焼きの醍醐味はここにある。

うさぎの下に敷き詰められたピラフに手を伸ばす。
穀物は米ではなく麦で
ブルグルとシュヘリエの2種炊き合わせだ。
クルディスタンは内陸の地だから
例え大河が流れていようとも
米作には向かぬ土地柄なのだろう。

やはりわれわれ日本人にはライスピラフのほうが口に合う。
まっ、郷に入れば郷に従いのことわざ通り、
その地の素朴さを味わうのもまたよし。

うさぎとピラフと野菜だけではちともの足りない。
追加料理の発注に及んだ。
ラハマーションはピッツア風のナンに羊挽き肉のトッピング。
もちろん挽き肉は生ではないが意外なことに冷製だ。
生ニンニクが効いており、極めて風変わりな料理だった。

中東では定番のシシケバブはごくフツー。
羊のもも肉を焼いただけだが肉汁不足でイマイチ。
何はともあれ、本日の主役は月夜の丸チャンに尽きるネ。

締めはケーキとコーヒー。
J.C.はかつてトルコのサルタンが愛したという、
オスマン・コーヒーを所望した。
トルキッシュ・コーヒーにクリームやらカラメルやら
チョコレートまでも投入したヤツだ。
甘党じゃないから特別な感慨はナシ。

いよいよお開きという段になって
スモーカーでもない一人の女子が
目ざとく見つけたモノがあった。
シーシャ、そう、水煙草である。

言い出したら引かないタイプにつき、
1台発注して回し飲みと相成る。
興味を持ったヨソのOLグループも参加して来る始末で
清国の阿片窟もかくやの嬌態がくり広げられた。

クルド料理はもういいや、一瞬そう思ったものの、
クルドだけにまた来るどっ! ってか。

=おしまい=

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