2018年12月24日月曜日

第2030話 時を超えて初訪問 (その2)

港区・東麻布の鮨屋を独りで訪れている。
おっと、店名を記し忘れておりやした。
「麻布 魚治鮨」と発しやす。

平目、細魚の次はひかりモノを―。
生あじと小肌である。
常日頃、酢あじはいただくが生あじは避けている。
どんなに新鮮であってひかりモノは酢〆でなければならない。
半世紀の間ずっと、その信念だけは曲げずに貫いてきた。
と、言いつつも時として例外があるワケだ。
当夜がそのよい例だった。

しょうがで供された生あじはまあそれなり。
強めに〆られた小肌はなかなか。
鮨屋に入って小肌を食べずに出ることはまずない。
売切れ、あるいは仕込みナシなんて目に遭えば、
瞬時に正気を失い、テーブルをひっくり返す。
もっともつけ台は食卓じゃないから
ゴリラでもない限り、物理的にムリなハナシだがネ。

続いてすみいか&そのゲソを―。
淡路島に揚がったすみいかには海苔がカマされている。
せっかくのパキ・ネト食感に海苔挟みは余計だ。
赤ん坊の握り拳みたいなゲソは煮ツメでやってそこそこ。

菊正宗の上燗に移行した。
たこ&海老をパスした代わり、ここで貝類4連発である。
平貝(たいらぎ)はまたしても海苔挟み。
赤貝ひもも海苔の黒帯を締めていた。
カタチを整えるための黒帯には目をつむるが
海苔挟みの乱用はいただけない。
にぎり鮨はなるったけ添え物を排し、”素”のままがよろしい。

平貝&赤貝ひもの本体はまずまず。
そのあとの煮はまぐり&蒸しあわびもそれなりの美味しさだ。
どれを取ってもハズレは一つとしてない。
まことに堅実な鮨店である。

最近はあまり見かけなくなった蝦蛄(しゃこ)がある。
親方が愛知の産と言うから
知多の豊浜と見て間違いあるまい。
幻の江戸前、小柴産に比べるべくもないが
これはこれで煮ツメでやり、じゅうぶんに楽しんだ。

蝦蛄と一緒に通したのが穴子のシモ(下半身)。
これには柚子皮が1片。
穴子と柚子の相性はよいものの、やはり”素”が好み。
ご多分にもれず、じっくり煮ふくめられており、
舌の上でとろけはしないが、やはり柔らかい。
浅草「弁天山美家古」のパリッとあぶられた、
沢煮の穴子が無性に恋しくなるのであった。

=つづく=