2018年12月13日木曜日

第2023話 月夜の丸焼き (その2)

「メソポタミア」・・・
実に大そうな店名を冠する、
都内唯一のクルド料理店がここである。
世界のあちこちを放浪し、漂流し、徘徊して
様々な食べものを食してきたが
さすがにクルド料理は口にしたことがなかった。

棲む土地はあっても
国境を備えた国を持たないクルディスタン。
人々はイラク北部に定住しているため、
常に紛争に巻き込まれている。

エジプトがナイルの賜物ならば
メソポタミアはチグリス&ユーフラテスの賜物。
両河川の上流に位置して
古代にはアッシリアが制覇して築いた、
一大帝国の一部がクルディスタンである。

たまたまクルド料理店「メソポタミア」の存在を知り、
食いしん坊仲間に声を掛け、食卓を囲むことになった。
予約の際にお願いしておいたのは月夜の丸焼き。
この料理が当夜のメイン・ターゲットであった。

スーパードライの中ジョッキで乾杯。
ビールと同時にピクルス(キャベツ&にんじん)、
サラダ・シュヴァンも供された。
このサラダはトルコの国民的料理、
チョバン・サラタス(羊飼いのサラダ)とほとんど同じ。

J.C.はこのサラダが大好きで
はるか昔、トルコを周遊した際、
不足がちな野菜を補給するためにも毎日食べていた。
今でもたまに自分で作るが
定番レシピにミントの葉を加えるのが気に入りである。

ワインは白がシルーフ・マナストゥル。
ちょいと甘いがコク味に長けたアッシリアのワインだ。
赤はアルメニアのクール・レッド(Kool Red)。
万人受けするぶん、個性の発揮はみられない。

談笑する間もあらばこそ、うさぎの丸焼きが登場。
一同の歓声が店内にこだまする。
ヨソの視線もわれらのテーブルに集中した。
みなの注目を集めたのは口元からこぼれる前歯だ。

タレントの優香みたいに
可愛いものかと勝手に思っていたら
かなり鋭い2本の歯が強烈な印象。
そのうえ耳が落とされているから
可愛いどころか不気味なくらいでありました。

=つづく=