2019年5月20日月曜日

第2135話 枇杷に鳥貝 鰹に鱸 (その1)

小田急線で成城学園前から2駅の千歳船橋。
若い世代は親しみを込めて、
か、どうかは知らないけれど、
この町を”ちとふな”と呼んでいる。

じゅうぶんに歩ける距離ながら
時間が押しており、電車を利用した。
ビルの2階に上がり、「旬菜 すがや」へ。
予約の旨を告げるとカウンターのほぼ中央に促された。

「成城」で生中を3杯も飲んだから日本酒で始めよう。
リストをにらみ、択んだのは斬九郎純米というヤツ。
これが120ml480円也。
こく辛とあったがトロッと甘い。

一升瓶には”斬れ潔し”と明記されていた。
長野県は伊那の産である。
伊那と聞けば、

♪   影かやなぎか 勘太郎さんか
  伊那は七谷 糸ひく煙り  ♪

小畑実と藤原亮子のデュエット歌謡、
「勘太郎月夜唄」が思い起こされる。
太平洋戦争の只中、昭和18年に封切られた股旅物、
「伊那の勘太郎」の主題歌である。

そんなこって伊那の第一感は勘太郎だったが
実際に唇を濡らしているのは斬九郎。
似たようなネーミングでもイメージはずいぶん異なる。
勘太郎だと、歌や映画の影響から縞の合羽に三度笠。
斬九郎は血塗られた過去を持つ妖剣の使い手で
身を持ち崩したら辻斬り強盗すらやりかねない、
悪役にまで成り下がる。

それはそれとして斬九郎の女房役を決めねば―。
昔も今も世の中はよくしたもので
荒んだ生き方しかできない亭主には
陰で支える気立てのよい恋女房が付きもの。
時代劇だろうが現代物だろうが映画やドラマの定番だネ。

そんなことにも気を配りながらお願いしたのは
枇杷(びわ)の白和えである。
料理屋では滅多に出逢えない枇杷は大好きな果実。
何せ、フルーツのマイ・ベスト3は
 ① 枇杷  ② 梨  ③ 桃
てな塩梅なんざんす。

白和えには枇杷のほか、小海老とのらぼう菜。
のらぼう菜は東京近郊の多摩、川崎、飯能辺りで
栽培されているアブラナ科の葉野菜。
小松菜に似てないこともないが食味はこちらが勝る。
千本しめじも散見されるなか、
枇杷、海老と穏やかなハーモニーを奏でていた。

=つづく=