2019年5月23日木曜日

第2138話 フラれ降られて令和の元日 (その2)

深川不動堂の参道。
永代寺の門前辺りで立ち尽くしている。
ぶぶ漬けの「近為」でもないし、
老舗和菓子店「伊勢屋本店」の食堂でもあるまい。

ええい、ままヨ!
参道を出て永代通りを木場方面に向かった。
ほどなく行きすがったのは間口の狭い1軒の日本そば屋。
普段は見過ごす店構えながら、奇抜な屋号に足を止める。
葛飾・柴又でもないのに「寅次郎」だとサ。
寅さんファンとしては看過できぬものがあった。

店先に日本酒の一升瓶が並んでおり、
飲めることは判ったが、おそらくハズレだろうという懸念が湧く。
ここまでフラれ続けてきたこともあって
ちゅうちょしつつも入店すると、
野球帽をかぶったオジさんに迎えられた。
およそ、そば屋の職人には見えない。
まっ、入ったからには致し方ない。

店内は10席ほどのJ字カウンターのみ。
先客はジイさんが1人きりで
空のジョッキを前に居眠りをしている。
何だかヘンな空間に迷い込んじまったと、
後悔の念がよぎったが寅さんに免じて許そうか―。

ウリはそば&どんぶりのセットメニューであるらしい。
場所柄、深川丼なんかもあった。
サッポロ黒ラベルの中瓶を通して品書きの吟味。
地酒もつまみもかなりの取り揃えだ。
鯨ベーコン、うなぎ肝焼きが目についたものの、
外しそうな予感がして決断がつかない。

結局、発注したのは、そば&穴子天丼のセット(850円)
冷たいもりと温かいかけが択べ、ここはもりで。
そばは挽きぐるみの中太、コシはあるが香りに乏しい。
つゆは鰹出汁が効いてるものの、甘みの勝った下世話なもの。
薬味はさらしねぎにニセわさび。
こりゃ、ダメだわ。

天丼は穴子丸1尾にピーマン1片。
肉厚の穴子はいったい何者だろうか?
値段からして上等な真穴子ではあるまい。
銀穴子? 黒穴子?
確信を持てぬまま食べ終える。
ごはんが硬めに炊かれており、
もりそばより天丼のほうがよかったかな。

そろそろ酒場が出揃う時間帯。
永代通りと大横川にはさまれた飲み屋街に向かおう。
元気よく歩き出したら、いきなり空からパラパラときた。
コンビニでビニール傘を買うほどではないが
気勢を削がれたのも事実。
東京メトロ東西線の入口に飛び込んで雨宿りの巻である。

=つづく=

「寅次郎」
 東京都江東区富岡1-24-3
 03-3630-5393