2019年5月27日月曜日

第2140話 フラれ降られて令和の元日 (その4)

浅草は雷門通りの「酒富士」に独り。
店の止まり木にはハグレ雀が4羽、その羽を休めている。
1羽のオヤジ雀は皮付きべったら漬けを持て余し気味。
パッタリと箸が止まっていた。

女将の姿が見えないが、おそらく彼女の倅だろう、
カウンター内のニイさんに
「赤鹿毛・青鹿毛とは何? どこが違うの?」―
訊ねてみると、返って来た言葉は
「大麦の焼酎で、青のほうが甘いというか、
 クセがあるというか・・・」―
どうにも要領を得ない。

本来は芋焼酎を好むタチながら
初お目見えの銘柄だし、ここは1杯いっとこう。
どうせなら、そのクセのある青鹿毛に挑戦してみよう。
ロックでいただいてみると、
第一感は大分産はだか麦焼酎の兼八。
鼻腔に抜ける香ばしさがとてもよく似ている。
青鹿毛は宮崎の産で、二条大麦使用とのことだった。

つまみはもう何も欲しくはないけれど、
大の男が酒場の片隅で沢庵だけでは傍目にも哀れを誘う。
ムリにでも何か1品通さねば―。
当店の肴は、もろきゅう(350円)から
まぐろ刺し(1100円)までの価格帯。
いま一度、じっくりと品書きに目を通した。

お願いしたのは軽めの川海老唐揚げ480円)
ところが、これまたドッサリ来た。
朱色というか、朱鷺色というか、
姿カタチは麗しいが何ぶん多過ぎる。
ヒマに任せて数えてみたら24尾もあった。
どうすんのヨ、コレ?

もともと小さなエビ類は好んで食べる。
富山湾の白海老が好き。
駿河湾の桜海老ならもっと好き。
しかし、淡水に生息する川海老は滅多に注文しない。
レモンを搾りかけて口元に運べば、爽やかな美味。
でも、道半ばにして箸の上げ下げに滞りが生じた。
どうにか20尾ほどクリアして退散することに―。

あとからやって来たパートのオバちゃんだろうか?
「お客さん、傘あるの? 持ってく?」
「いや、だいじょうぶ」
「だけど、ずいぶん降ってるヨ」
「すぐ潜るからいいんだ、ありがとネ」

しかるに考えは甘かった。
都営地下鉄入口までの短い距離にもかかわらず、
髪からしずくが垂れるほどに濡れそぼった。
船出したばかりの令和なれど、
前途に多難を予感させる元日の夜でありました。

=おしまい=

「酒富士」
 東京都台東区浅草1-6-1
 03-3843-1122