2019年8月12日月曜日

第2195話 とんかつをもう一度 (その1)

連日、暑い、いや、熱い日が続いている。
その日の午後は台東区の合羽橋道具街に用事があった。
簡単に済ませ、やや遅めのランチである。
ここより東進すればすぐに浅草、西下ならほどなく上野。
芭蕉が聞いた鐘は鳴ることとてなく、
照りつける太陽の下、歩き始めたのは浅草通りでも
向かったのは上野であった。

浅草に「神谷バー」あるごとく、
上野、正確には御徒町だが「味の笛」あり。
大箱の前者、小箱の後者と、キャパシティはかなり異なる。
「味の笛」は15時の開店だから
それまでかなりの時間をつぶさねばならない。

東京メトロ銀座線・稲荷町駅を通過したとき、ふと心づいた。
6月は目黒の「大宝」、7月は谷中の「一寸亭」と
このところ、とんかつは失敗の連続。
そうだ、今日こそとんかつのリベンジを果たそう。

上野方面でとんかつとくれば、第一感は「井泉本店」。
「本家ぽん多」もいいが、あそこは値が張るからなァ。
2軒あって安価な「山家(やまべ)」は行列必至だし、
たまにはヒレかつの「蓬莱屋」にでも行くか。
いや、やはりとんかつはロースに限るよなァ。

ここで思い出したのが上野駅入谷口に近い「丸一」。
店先を何度か通りすがったものの、未だ訪れていない。
確か、1階が「とんかつ 丸一」、
2階が「とんかつ割烹 中川亭」だったハズ。
即、決断を下して向かった。

店内は空いていた。
手前にテーブル席がいくつか。
奥に逆L字形カウンターがあり、当たり前のように奥へ。
昼の定食メニューを紹介してみよう。

ロースかつ ヒレかつ かつ丼 生姜焼き 以上1200円
さば塩焼き さば味噌煮 以上850円

冷たい麦茶を運んでくれたオネエさんに
間髪入れずロースかつ定食を通す。
そうしておいて備え付けのスポーツ新聞を手に取った。
取ったはいいが席は好位置、
職人さんの仕事ぶりが一目瞭然だ。
こりゃ新聞なんかよりずっと面白い。

かつを揚げながらも店内の目配りを怠らない。
出客には「ありがとうございました~!」、
入客には「いらっしゃいませ~!」
元気な声が響き渡る。
初老のオジさんとはいえ、実に大したもんだヨ。

=つづく=