2019年8月16日金曜日

第2199話 冷酒に寄り添う 瓜と無花果 (その1)

ふくらんだ腹をさすりながら「丸鶴」をあとにした。
川越街道を渡り返して下頭橋通りを”北上”する。
道は緩やかな下り坂だから
”北下”と書きたいところなれど、それでは日本語にならない。

いや、熱いなァ。
昔、棲んでいた弥生町をヘロヘロと歩く。
懐かしの母校、弥生小学校正門前にやって来たが
中に入るわけにもいかない。
ヘンなオヤジが小・中学校、いや、高校だって
むやみやたらに敷地内へ足を踏み入れたら
不審人物と認識され、下手を打つと110番通報される。

東武東上線・中板橋駅から電車に乗って大塚に向かった。
のみとも・W辺サンとは「江戸一」の開店時間、
16時半に現地の待合せ。
大塚着はその10分前だった。

いや、ノドが渇いたなァ。
あいにくと「江戸一」のビールのラインナップは
エビスとキリンラガーでアサヒやサッポロはない。
JRの改札を南に出ると、
チンチン電車の線路の向こうに「富士そば」が見えた。
しめ、しめ、即入店して券売機にコインを投入。
図らずも中ジョッキはスーパードライであった。

ボトムズ・アップに要した時間は1分足らず。
水を得た魚のように生き返った身体は元気はつらつ。
南大塚通りを横断してゆくと
目の前にW辺サンが現れた。

およそ2年ぶりの再会である。
そのときも「江戸一」だった。
先述の「富士そば」の脇で偶然、W辺夫妻と遭遇し、
目的地の一致をみて同行に及んだ次第なり。

あちらはいきなり冷酒、
こちらは一番搾りの黒ビールで乾杯。
突き出しのかつお角煮みたいなのは何だろう?
一箸つけると、かつおやまぐろよりアッサリしている。
身肉の色づきも薄い。
品書きに目をやったら平政刺しがあった。
ふむ、これはおそらく、その平政の切れ端だネ。

冷えた白鷹樽酒に切り替えるのと同時に無花果を―。
そう、イチジクである。
メソポタミアや古代ローマの人々も常食したそうだ。
よって人類に栽培された世界最古のフルーツといわれる。

てっきりコンポートか甘露煮と思い、
女将に訊ねたら生のままとの黄桃、じゃなかった応答。
めったに注文しないというか、
酒場で見かけぬ珍しいつまみにつき、お願いしてみよう。

=つづく=

「名代 富士そば 大塚駅前店」
 東京都豊島区南大塚3-55-1
 03-3983-2381