2019年8月20日火曜日

第2201話 チャーハンをもう一度 (その1)

ジリジリと太陽が照りつける灼熱の昼下がり。
台東区は根岸の里にいた。
根岸の地名の由来には諸説あり、
古くは上野の山のふもとに
木の根のごとく岸辺が続いていたためという説。
上野の山の根っこ部分の岸だからという説。
いずれにしろ、この辺りはかつて海だった。

そろそろ昼めしにしよう。
そう思いながら言問通りを鶯谷駅方面に渡った。
目指したのは町中華の「大弘軒」。
北口改札の真向かいに位置して
10年前に一度だけ利用した記憶がある。

冷やし中華をツルツルッとやるつもりでいたが
あいにくとメニューに冷やしモノが見当たらない。
この時季にこういう中華屋も珍しい。
通常はビール&餃子にシフトするところなれど、
前夜の酒がまだ若干残っているのでやめとこう。

この瞬間、よみがえったのが数日前に訪れた、
板橋区・大山の人気店「丸鶴」のチャーハンである。
ふむ、入店したのも多生の縁、
大山の敵を鶯谷で討つといたそうか―。
昔の人は言いました。
”山”不味ければ、”谷”美味し

当店のチャーハンは試してないけど、
昔ながらのシンプルなヤツが出てきそうな予感があった。
間違っても肉まみれの肉責めなんてことはなかろう。
隣りのリーマンがすすっているタンメンを眺めながら
意を強くするJ.C.であった。

「大弘軒」は「丸鶴」とは正反対で
チャーハン類はタダのチャーハンのみと素っ気ない。
五目・海老・蟹など、皆無なのだ。
レタス入りなんてのもないし、
ましてやとび子なんかありっこない。
5種類も揃う「丸鶴」とは根幹の思想が異なっている。

ものの5分で到着した炒飯と清湯。
ここまでは「丸鶴」と一緒だが目に映る景色はまったく違う。
何と可愛いチャーハンだろう。
玉子の黄色、ねぎの青、ナルトのピンク、
そしてチャーシューの茶色。
控えめなお花畑といった光景が心を和ませる。

まさにこのとき、脳裏をかすめたのは
全英女子チャンピオン、渋野日向子の姿であった。
何のこっちゃい! ってか?
いや、その疑問はごもっとも。
種明かしは次話ということで―。

=つづく=