2019年8月15日木曜日

第2198話 バスに乗ったが つまづきの元 (その2)

背中を汗が一筋、ツツーッと伝ってゆく。
うだる熱さの中を歩くこと10分あまり。
初訪問の「丸鶴」に到着。
時刻は14時40分で
どうにか昼の営業時間内に滑り込みセーフだ。
指示されるがまま、カウンターに着座する。

ラーメンも評判らしいが
当店の主力メニューはチャーハン。
全5種類が別枠で壁に大きく貼り出されていた。

チャーハン・・・600円
レタス入りチャーハン・・・700円
海老入りチャーハン・・・850円
チャーシューチャーハン・・・850円
とび子チャーハン・・・850円

いくら何でも安い鮨屋じゃあるまいし、
とび子はないやろっ!
写真を見たらチャーハンの上にオレンジ色のとび子が
これでもかとぶっかかってやがんの。
ここはオーソドックスに普通のチャーハンをお願い。
ちなみに当店の珍品には
油揚げ入りのきつねラーメンなんてのも―。

カウンターに積み上げられた缶詰は
李錦記の頂上蠔味醤グリーン缶。
いわゆるオイスターソースだ。
その山を眺めているうち、炒飯と清湯がサーヴされた。
どちらからも濃厚な匂いが立ち上ってくる。

さっそくスープを一口。
うわっ、強烈なブシボシ(節干し)フレーヴァー。
チャーハンも一掬い。
うおっ、強力なケモノフレーヴァー。
あえて”臭”とはいわず、”香”と呼んでおこうか。

15時には暖簾が仕舞われるからレンゲをせわしなく動かす。
チャーハンの具材はブツ切りチャーシューと溶き玉子のみ。
”チャーシュー炒めまぜごはん玉子入り”といった景色だ。
せめて長ねぎくらいは入れてほしいヨ。

奮闘努力の甲斐もなく4分の1ほど残した。
そのほとんどが肉のブツ。
スープも3分の1余った。
だけどこういうの、
肉好きや魚粉好きにはたまらないんだろうな。

でも、J.C.にはムリ。
デリカシーを常に意識しながら人の世を生きる者にとって
ここのチャーハンはツラすぎる。
しかし、店主は彼なりの哲学に基づき、調理するわけで
事実、根強いファンの支持を受けており、
東京三大チャーハンの一翼を担うとも聞き及ぶ。
さもなきゃ半世紀以上に渡って、
店を存続させることなどできやしない。

イヤな顔されそうで自重したビールの代わりに
飲み干すコップ水の味気なさ。
たまたま止まったバスに乗ったがつまづきの元。
男J.C.、心乱れてこれからどこへゆく。

「丸鶴」
 東京都板橋区大山西町2-2
 03-3955-2209