2019年8月19日月曜日

第2200話 冷酒に寄り添う 瓜と無花果 (その2)

豊島区・大塚の酒亭「江戸一」に寛いでいる。
この空間に身を置くだけでシアワセを感じる。
わが身にとって東京にそんな店は数えるほどしかない。
指を折っても片手で足りるくらいだ。

樽酒を飲むうち、注文の一品が整った。
ホントにカットされた生イチジクだ。
甘酸っぱいソースが掛け回されている。
舌先に涼を運んで、なかなかオツなものである。

ジャコ天をつまんでいるW辺サンは
この聖地に通い始めて実に半世紀。
使い古された常連なんて言葉はそぐわない。
ここまでくると、店にとり憑いた霊に等しい。
もっと若けりゃ、座敷わらしか―。

日本酒の2杯目は伝心。
福井県・勝山市の一本義久保本店による、
伝心シリーズ4本のうちの1本だ。
ラベルが緑色だったから「稲 純米」と思われる。
シリーズ中ではコクのあるタイプだが重たい感じはしない。
あと追いのイチジクが素直に従っている。

頼んだ覚えのない小皿を
女将がそれぞれの盆に乗せてくれた。
意表を衝かれながら、のぞいてみれば、
緑色の野菜が2種2切れづつ。
濃いのが胡瓜で薄いのは白瓜、いやはや、夏本番ですなァ。

「江戸一」にしてはよく漬かっている。
普段はもっと漬かりが浅い。
元来、古漬けは苦手ながら
糠床さえよければ、いただけちゃうんだねェ。
そして瓜たちは冷たい伝心にピタリ寄り添い、
まさしく以心伝心でありました。

追いかけるようにして新香盛合せが届いた。
どうやら相方の通したのがこれで
開店直後の注文ラッシュに手が回りかね、
取りあえずの胡瓜&白瓜だったらしい。

先刻のチャーハンのせいか、箸がなかなか進まない。
こんなときに軽いつまみはありがたい。
その代わり、手酌酒はハイピッチ。
山口県・岩国市は八百新酒造の雁木(がんぎ)に移行した。

日本酒党ではないため、断言し難いが舌に多少の覚えあり。
同じ岩国市は旭酒造の人気銘柄、
獺祭(だっさい)と飲み口がよく似ている。
当たらずとはいえ、遠からずであろうヨ。

いつになく長居してしまった。
開店直後の客の中ではロンゲスト・ステイである。
W辺サンが一声聴かせてくれるというのでスナックへ移動。
歳をとると身体の好不調は声に反映される。
日頃からヴォイス・トレーニングはとても大事だ。
昔の人は言いました、老いては”声”に従えと―。

「江戸一」
 東京都豊島区南大塚2-45-4
  03-3945-3032